特集 親族内で事業承継をするメリットとデメリット

親族内で事業承継をするメリットとデメリット

親族内で事業承継をするとき、メリットとデメリットがあります。継承方法は会社によって異なりますが、ここでは親族内で事業承継をする際の注意点などについて、詳しく紹介していきます。

 

■事業承継の承認先(後継者)には何がある?

事業承継の承認先は後継者です。あらかじめ後継者が決まっている場合もあれば、後継者問題で決めかねている状況もあるでしょう。しかし、いずれにせよ相手方が後継者として承認しなければ、円滑に承継できません。

事業承認の後継者として、重要な3つの承認先について説明します。

 

◇親族内承継
中小企業の場合、親族経営が多くなります。そのため、当然ながら親族に承継してもらいたい心情が強く働きます。

しかし、「親族内承継」は先代から会社事業を引き継ぐと同時に、配偶者・親子・兄弟関係という関係上、同時に相続が絡んできます。会社財産と代表者の財産は会計上別々になっていますが、実質的に一体化している場合も少なくありません。たとえば会社株式は代表者もしくは同族関係で成り立っていますから、相続の対象となります。

 

◇親族外承継
一方、「親族外承継」として従業員に事業承継をする場合があります。親族経営ができない事情がある会社は、親族以外から事業承継人を見つけなければなりません。この場合、一般的に適任とされる後継者は、長年勤務してきた従業員です。会社の事情をよく知っていると共に、従業員を束ねるリーダーシップを持ち合わせた人物として経営者に相応しいと考えられるからです。

「親族内承継」が限定的であるに対し、「親族外承継」は広い視点で後継者を選ぶことができます。

 

◇M&A
M&Aは会社と会社の吸収合併のため、会社の財産が一本化します。中小企業は基本的に吸収合併をやりたがらない傾向があります。しかし後継者が見当たらず、優秀な技術や従業員を路頭に迷わすことができないなど、諸事情を考え英断を下さざるを得ない場合は仕方ありません。吸収合併することで、事業規模は大きくなるため一見有利に考えられがちですが、経営としてはガバナンスが難しくなるとされています。

 

■親族内で事業承継をするメリット・デメリット

中小企業の事業承継は、どうしても身内(親族)に向かいがちです。ある意味で理想的承継といっても良いでしょう。しかし、親族内で事業承継をする場合には、メリットとデメリットがあります。

 

◇親族内承継のメリット

 

・相続開始前に後継者設定をしやすく、相続税対策が早くできる

・個人財産を相続させることができるため、財産整理(生前贈与)を前もってできる

・早いうちから経営者としての教育を行うことができ、育てる時間に余裕がある

 

◇親族内承継のデメリット

 

・若いうちから後継者になる覚悟ができていても、事業経営と共に経営者としての継続力があるかどうか判定が困難

・後継者に相応しい相手が親族内に見つからない場合がある

・前経営者の個人保証なども引き継ぐことになり、経営リスクも引き継ぐことになる。

 

■親族内での事業承継の進め方

いくら親族であっても心構えが必要ですから、親族内承継でもあらかじめ段取りを組み立てて引き継ぎをはじめましょう。

 

1.後継者選定
後継者はできるだけ早めに選定しておきます。経営者になる意識と心構えは、早いうちから自覚できる状態しておくことが望ましいです。

 

2.経営者育成・教育
ある程度の年齢に達したら、経営者としての資質、人格、リーダーシップが発揮できるかなど、後継者育成・教育を行います。そのために従業員と共に持続的に職場で労働してもらったり、一旦、同業者や主な取引先の会社に雇い入れてもらい、修行させることもできるでしょう。

 

3.相続・贈与対策
親族内での承継は、あとあと相続人となるため、トラブルを起こさないように配慮しなければなりません。相続トラブルは会社経営に影を落としかねませんので、密接にかかわる税金対策は重要です。

 

4.会社内部での承認と周知徹底
取締役会において、後継者を選任します。ただし、親族以外の者がいれば承認してもらう必要があります。さらには、代表就任時、正式に従業員に周知しておきます。

 

5.名義変更と代表者印
代表者を正式に変えたとき、法人登記関係の変更手続きを行います。また、契約取引上の名義変更など手続きを行います。

 

親族内で事業承継するメリット・デメリットについて紹介してきました。事業承継の問題は、どの会社にでも起き得ることです。特に後継者選びは経営と密接に関係してくるため、どのような事業承継の方法を選ぶにしても、事前整理だけは事無く進めておきましょう。

経営者の影響力を残しつつ自社株贈与できる「種類株式」とは?
齋藤 伸市
スムーズな事業承継のためのツールとなる「種類株式」自社株を後継者に贈与したいが、自分の実権がなくなってしまうのは困る――そんなときに活用できるのが種類株式です。 種類株式を利用しても節税になるわけではありませんが、オーナー経営者の影響力を維持しながら自社株を後継者に贈与することができるので、スムーズな事業承継のためのツールとして利用することができるのです。 種類株式には、いくつかのタイプがあります。まとめてみると下記図表のようになります…
「カリスマ型」経営者の事業引き継ぎの成功事例
和田 哲幸
経営者タイプ等が同じなら引き継ぎ自体はスムーズ経営者タイプと職種タイプが同じ場合の引き継ぎは、まさに自らの分身として、ソフトもハードも従来のものをきちんと継承することができるでしょう。半面、引き継ぎ後に革新的な変革を起こすことは難しいかもしれません。 幹部には充分に理解してもらい、引き続きバックアップしてもらうように引き継ぎをすることが大切です。 ●司令塔型自らのリーダーシップにより後継者を指名する司令塔型は、カリスマ型経営者がよく選択…
事業承継における組織再編の重要性と一般社団法人の活用方法
齋藤 伸市
役割の終わった会社は「早め」に整理をしておくオーナー企業でも、会社の数が必要以上に多くなってしまい、管理上の弊害や事業承継上の弊害をもたらすケースがあります。たとえば、建設業などの場合、公共事業の入札に参加する際、その市区町村に事業所がなければ参加資格を得られない場合があります。 そのようなときには、入札を行うための会社を設立することになります。その仕事が終わってしまえば、会社も役割を終えますので、休眠状態の会社がいくつもできてしまうよ…
自社の業務内容等に合わせた「6つ」の事業承継パターンとは?
和田 哲幸
業務内容と合致する事業承継のパターンを選定【その4:誰に引き継ぐか決める】マニュアルが準備できたら、次に後継者を定めます。より最適な相手を選ぶためには、自社に適した事業継承の方法を選ぶ必要があります。筆者は事業継承をわかりやすく基本的な6つのパターンに分類しました。まずは基本の事業継承のパターンから理解していきましょう。 <事業継承のパターン>●ベンチャー型法人の形態・屋号・事業内容を一新し、会社として新たに生まれ変わる引き継ぎ方法 ●匠…
後継者に「経営権(株式)」を集約するコツとは?
齋藤 伸市
売り手側が「株式を売りたくなる」タイミングとは?よくあるのが、相続をきっかけにした会社の株式の分散です。分散したままでは、経営権争いに発展するケースもありますので、後継者に集約したいと考えるのが通常の感覚だと思います。 その方法にはいくつかありますが、最もオーソドックスなのは、所有者から株式を買い集めていく方法です。 株式の売買においては、どちらがアプローチするかによって株価が大きく変わります。買い手側から申し出を行えば、売り手が渋り、…
社内の「帳票類や書式」「組織図」の見方を明文化すべき理由
和田 哲幸
社内書類の形式には会社のノウハウが詰まっている前回に引き続き、事業のハード面をスムーズに引き継ぐために「引継ぎマニュアル」の作成方法について見ていきます。 ③「帳票・書式の見方」を明文化する社内で当たり前のように使われ、慣れ親しまれている帳票類や書式にも実は理念が隠されています。帳票類や書式には、企業のノウハウが詰まっています。 例えば、どんな製品を扱っているのか、製品をどのように処理するか、粗利が何%で利益が立つか、といったような情報…
事業の「ハード面」をスムーズに引き継ぐ方法とは?
和田 哲幸
事業の全容を知らなくても理解できる業務フローを作成事業承継を行うための「引継ぎマニュアル」の作成方法を見ていきます。 【その3:引き継ぎマニュアルを作成する】ハード面をスムーズに継承するために不可欠といえるのが、「引き継ぎマニュアル」です。事業継承の指針となるものですから、できるだけ丁寧につくる必要があります。以下にその作成内容を解説していきます。 ①「業務フロー」を明文化するどんな業務にも行程と流れが存在しますが、後継者があらかじめそ…
「ホールディングス化」で自社株の高騰を抑えられる理由
齋藤 伸市
純資産価額方式における株価の高騰を抑制毎年利益を計上している会社は、年々自社株の評価額が高騰していきます。ホールディングス化によりこの高騰を抑えることが可能です。 取引相場のない株式の評価方法には、類似業種比準方式と純資産価額方式、その併用による方法があります。ホールディングス化はこのうち、純資産価額方式における株価の高騰を抑える効果があります。 純資産価額方式は、もし会社を清算する場合に株主に返す金額を、その会社の評価額とする評価方法…
事業承継で「引き継ぐべきこと」を明確にする理由と方法
和田 哲幸
事業は「ソフト」と「ハード」の2階建てで成り立つ事業承継を行うための「引継ぎマニュアル」の作成方法を見ていきます。 【その2:引き継ぐべきことを検討する】事業引き継ぎについて考える時、引き継ぐべきものは何なのかに焦点を当てると、情報がすっきりと整理しやすくなります。事業というのは、“ソフト”と“ハード”という2階建ての概念的構造で成り立っています。 それを説明するのに、ひとつ適したエピソードがあります。フランスの作家、サン=テグジュペリの…
自社株の対策で「暦年贈与」を活用するメリットと注意点とは?
齋藤 伸市
5000万円の自社株を485万円の贈与税負担で渡せる!?シンプルな方法として、暦年贈与を使って自社株を贈与していく方法もあります。暦年贈与とは、毎年贈与をしていく方法です。暦年贈与には年間110万円の非課税枠があります。仮に500万円の贈与を行った場合、110万円を差し引いた390万円が贈与税の対象となります。 2015年の贈与から贈与税の税率が改正され、直系尊属からの贈与には一般の贈与よりも低い税率が適用されるようになりました。前述の390万円の贈与の場合、390…
事業承継に向けて経営者としての「自分のタイプ」を分析する方法
和田 哲幸
経営者のタイプが会社のカラーを決める前回に引き続き、自分を知る方法について見ていきます。 ②経営者としてのタイプと役割を分析自分の棚卸によりここまでの人生の歩みを振り返ったところで、それを会社と結びつけ、自分が事業とどう関わってきたか、どんな役割をしてきたのかを確認していきます。事業継承において重要なのは、自らがどんな経営者であったかを客観的に分析することです。 なぜなら、経営者のタイプはそのまま会社のカラーとなるものであるため、自らを…
中小企業の事業承継を円滑にする「納税猶予制度」とは?
齋藤 伸市
株式を後継者に渡す方法は主に「二つ」自社株の評価が下がったタイミングで後継者に株式を渡せば、税負担を軽くすることができます。では、どのような方法で渡すのがよいのでしょうか。 一つの方法は相続時精算課税制度を利用するものです。これは、生前贈与を行う際には贈与税を支払わずに、相続の際に合わせて税額を計算し、精算をする制度です。税額は相続の際に再計算しますが、評価額は贈与した時点で確定しますので、自社株の評価が低いときに贈与を行うことで納税額…
事業承継を成功に導く「引継ぎマニュアル」とは何か?
和田 哲幸
実務だけでなく経営者の理念や精神の引継ぎも重要事業の引き継ぎといえば、経営権や株式などといった、実務的なことがまず頭に思い浮かぶ人は多いのではないでしょうか。しかし、確かに実務さえすべて引き継げば事業は存続しますが、それだけだと継承後の社内外の人間関係や事業の運営面でつまずき、それが結果的に経営に悪影響を及ぼすことが多くあります。そうならないためにむしろ大切なのは、経営者の理念や精神といった目に見えないものをどう引き継ぐかであり、自らの…
スムーズな事業承継を実現する「株価のコントロール」
齋藤 伸市
定番は退職金・生命保険・太陽光発電などの活用事業承継において、株価のコントロールは最も重要です。自社株の評価には、高い時期と低い時期があります。高い時期に相続が発生すると、高額な相続税負担が生じ、その後の経営に悪影響を及ぼしかねません。 事業承継を考え始めたら、株価のコントロールを行いつつ、評価が下がったタイミングで後継者に移転することが重要です。 自社株の評価にもっとも大きな影響を及ぼすのは会社の利益です。利益が高ければ評価は高くなり…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録