長寿化が進むなか、介護を必要とする人が増えています。現役世代にとって、仕事と介護の両立は大きな課題であり、子どもから施設への入所を勧めるケースも多いでしょう。しかしその選択が、後に大きな後悔に変わることも少なくないようです。80歳母と55歳娘の事例をもとに、介護離職後の現実と両立に困った場合の最善策をみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。
お母さん、ごめん…年金月7万円の80歳母に「老人ホーム入居」を勧めた55歳娘の後悔
仕事と介護の両立に限界が…「早期退職」を選択
――坂崎さゆりさん(仮名・55歳)は約1年前、母の多江さん(仮名・80歳)に老人ホームへの入居を促しました。ところが、いまになってその選択を後悔しているといいます。
独身で一人っ子のさゆりさんは、父が亡くなったことをきっかけに実家に出戻り。15年前のことです。それからは、多江さんと2人で生活していました。
母子の仲は良好で、休みの日にはショッピングに出かけたり、小旅行に行ったり、母子での同居生活を楽しんでいました。平日も、さゆりさんがバリバリ働いて家計を支え、多江さんが家事をして暮らしを支えるといった具合に、互いに足りないところを補い合っていたそうです。
ところが5年前、多江さんが75歳で「パーキンソン病」と診断されてから、その歯車が狂い始めます。
最初は室内の小さな段差につまずく程度だったものの、だんだんと家事をすることが難しくなり、さゆりさんが帰宅後に溜まった家事を片付けることに。やがて、身の回りの世話もさゆりさんのサポートが必要になり、多江さんの病気の進行とともに、さゆりさんの負担はどんどん増えていきました。
そして2年前のある日、パーキンソン病による転倒で、多江さんは股関節を骨折。それ以来、室内の移動にも歩行器が手放せなくなりました。
フルタイムで仕事をしながら家事と介護のすべてをこなすには、寝る時間を削るしかありません。
「もう、限界かも……」
そんなある日のこと。いつものように疲れを引きずり出勤すると、会社の掲示板に目が留まりました。
「希望退職者の募集について」
勤務先が業績悪化にともない、早期退職者を募っていたのです。
「上乗せされた退職金がもらえるなら、働かなくてもこれで当分生活は楽になるはず。介護の負担が減ってもう少し体調がよくなれば、また働けばいい……」
その知らせに導かれるように、さゆりさんは応募を決意しました。