想定外だった“子どもとの距離”
都内近郊に暮らす村井敬一さん(仮名・75歳)は、長年建設会社の営業職として勤め上げ、65歳で定年退職。妻の澄子さん(仮名・73歳)とともに、穏やかな老後を思い描いていました。
「仕事ばかりで、家庭は妻に任せきりだったけど、子どもが自立したら3人で食事をしたり、旅行に行ったり、そんな楽しみを期待していたんです」
しかし、大学進学を機に家を出た一人息子・直人さん(仮名・40代)とは、次第に連絡が途絶えがちに。社会人となってからも年に数回会う程度で、敬一さんが「一緒に暮らさないか」と提案しても、息子の反応はどこか素っ気ないものでした。
転機は、妻・澄子さんの体調不良。心臓の持病が悪化し、救急搬送されたのを機に、息子に協力を頼もうと連絡を取ったときのことでした。
「何かあったときのために、緊急連絡先に入れてもいいかとLINEで聞いたんです。そしたら、“もう関わりたくない”って、たった一言だけ返ってきました」
敬一さんは、その文面を何度も見返したといいます。「そんなに嫌われていたのか」と自問しながらも、思い当たる節がないことに、さらに気持ちは沈んでいきました。
現在、村井夫妻の収入は、合わせて月18万円の公的年金のみ。以前は持ち家に住んでいましたが、住宅ローン返済や医療費などで生活は徐々に苦しくなり、数年前に自宅を売却。現在は市営住宅で暮らしています。
「築40年以上の団地だけど、安いし静か。贅沢言ってられませんよ」と敬一さん。
しかし、澄子さんの定期的な通院や薬代、冬場の暖房費などが重なり、貯金はこの数年で約400万円減少。今は、残りの貯蓄を切り崩す生活が続いています。
総務省『家計調査年報(2024年)』によれば、65歳以上の夫婦のみ世帯の消費支出は月平均約25.6万円。一方、可処分所得の平均は月22.2万円程度。平均的な支出と収入のギャップを埋めるには、やはり貯蓄が頼りになります。
