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「孫は可愛い。でも、あの人も来るのよね…」
「ただでさえ物価高なのに、あの“食い尽くし系”がついてくると思うと、正直、憂鬱で……」
栃木県で夫と2人暮らしをする阿久津直美さん(70歳・仮名)は、そう言って肩を落としました。東京で暮らす一人娘・未央さん(38歳・亀井)一家が、去年に引き続き今年の年末年始も帰省することになっています。3歳の孫は今まさに可愛い盛り。会えるのはうれしい——そのはずでした。
しかし、直美さんの胸の内は、手放しで喜べるものではありません。
直美さん夫婦の年金は、2人合わせて月15万円。夫が自営業だったこともあり、貯金は約500万円です。老後資金としては決して心もとない金額ですが、持ち家があり、近所から野菜やお米をお裾分けしてもらうことも多く、日々を慎ましく暮らす分には、今のところ大きな支障はありません。
娘の未央さんも、実家の事情はよく理解しています。未央さんは共働き夫婦。世帯年収は約1,000万円あり、金銭的に頼ってくることはありません。それどころか、イベントごとにちょっとした贈り物を送ってくれたり、使わなくなった化粧品を「まだ使えるから」と譲ってくれたりと、何かと気遣ってくれる存在です。
「娘には、本当に感謝しています」
それだけに、直美さんが気に病んでいるのは、“娘のダンナ”の存在でした。
「出したもの、全部なくなるんです」
未央さんの夫・洋輔さん(40歳・仮名)は体育会系で営業職。体格もよく、結婚当初は「頼もしい人だな」という印象だったといいます。
ところが、去年の年末年始を一緒に過ごして、その印象は大きく変わりました。
「おせちも、煮物も、お雑煮も……とにかく、出したものを全部、平らげてしまうんです。『お義母さん、おいしいです!』と言って食べてくれるのはいいんだけれど、食べるスピードも早くて夫も呆気(あっけ)に取られていました」
元日はもちろん、翌日にはおせちがほぼ空に。気づけば食材が底をつき、正月早々、夫婦で買い出しに出る羽目になりました。
「細かく計算したわけじゃないけれど、結局、3万円くらいはかかっていたと思います。お正月だからって気が大きくなって、『まあ仕方ないか』って出した分も多くて……」
月15万円の年金生活にとって、3万円は決して軽い出費ではありません。
未央さんも、夫の大食いには自覚があるようで、後日「お正月はごめんね」とお米を送ってきました。その気遣いが、直美さんの胸を余計に締めつけました。
「娘にそんなことをさせてしまったのが、つらくて……」
同時に、無神経に食べ続ける娘の夫への苛立ちも、どうしても拭えませんでした。
「今年はカニ、やめようか」夫の一言
今年は、孫も少し大きくなりました。「せっかくだから、カニでも用意しようか」と直美さんは考えていました。
しかし、その話を夫にすると、返ってきたのはこんな言葉でした。
「去年みたいになるなら……カニはいらないよね」
孫も娘も可愛い。でも、あの人も一緒に来ると思うと、どうしても気持ちが追いつかない。直美さんは、複雑な思いを抱えたまま年末を迎えようとしていました。
悩んだ末、直美さんは思いきって娘の未央さんに電話をしました。すると、未央さんから思いがけない話を聞かされます。
「帰省のときのお土産、何にする? って話をしたの。みんなで食べられるものがいいかなって」
直美さんは内心、身構えました。ところが、続いたのは予想外の言葉でした。
洋輔さんがこう言ったというのです。
「だったら、うちの取引先のおせちがいいんじゃないか? 俺の心象も良くなるし、うち用とお義母さんの家用に2つ頼むよ」
「だからね、お母さん。今年はおせち、無理して作らなくていいから」
思わぬ提案に、直美さんは言葉を失いました。
「そういうことなら……うちでお刺身くらいは用意するわね」
電話を切ったあと、直美さんは少しだけ、肩の力が抜けたといいます。
