前回は、自社株の評価をコントロールする方法について説明しました。今回は、株式を後継者に渡す方法、そして「納税猶予制度」について見ていきます。

株式を後継者に渡す方法は主に「二つ」

自社株の評価が下がったタイミングで後継者に株式を渡せば、税負担を軽くすることができます。では、どのような方法で渡すのがよいのでしょうか。

 

一つの方法は相続時精算課税制度を利用するものです。これは、生前贈与を行う際には贈与税を支払わずに、相続の際に合わせて税額を計算し、精算をする制度です。税額は相続の際に再計算しますが、評価額は贈与した時点で確定しますので、自社株の評価が低いときに贈与を行うことで納税額を下げることができます。

 

相続時精算課税制度は、20歳以上の子どもや孫が60歳以上の両親や祖父母から贈与を受けるときに利用できます。利用条件が厳しくないのが最大のメリットです。

 

ただし、贈与時に税金がかからないのは2500万円まで。それを超えた分に関しては一律20%の贈与税を仮払いします。支払った贈与税は相続の際に精算できますから損はないのですが、贈与する自社株の評価額が大きい場合には、贈与の時点で納税資金を用意しなければならないというデメリットがあります。

 

仮に1億円の評価額の自社株を贈与するのであれば、2500万円を差し引いた7500万円に対して、20%の贈与税がかかりますから、1500万円となります。これは贈与を受けた後継者が支払わなくてはなりませんから、資金を調達するのは簡単ではないでしょう。

納税資金の調達が必要ない「納税猶予」の活用

このような高額な納税資金を用意しなくても贈与を行うことができる方法として、贈与税の納税猶予があります。これは中小企業の事業承継を円滑に進めるために設けられた制度で、生前贈与を行っても、贈与税の納税が猶予されるものです。

 

この制度を利用すれば、贈与の時点で自社株の評価額を確定させることができる上に、納税資金の調達も必要ないというメリットがあります。

 

贈与税の納税猶予制度を利用し、将来的に相続が発生したときにはさらに相続税の納税猶予制度を使うこともできますし、その時点で納税することもできます。仮に相続税の納税猶予制度を使わなかったとしても贈与時点で評価額は固定されていますから、自社株の評価額が低いときに贈与しておくことで納税額を抑えることが可能です。

 

相続時精算課税制度を使うオーナー経営者は比較的多いのですが、納税猶予制度を使っているケースは少ないのが現状です。その理由は、納税猶予制度を利用するための条件が厳しいからです。特に厳しいのが、後継者の条件と従業員の雇用確保です。

 

贈与を受ける後継者は、贈与時点に20歳以上であり、贈与の直前3年以上役員であることが必要です。株価の評価が下がったからといって、突然実行することはできないのです。中長期で事業承継を計画し、後継者を明確に定め、役員としておかなければなりません。

 

従業員の雇用確保では、納税猶予を利用して以降、5年間は8割以上の雇用を確保しなければなりません。業績が悪くなったからとって、リストラなどを実行することはできないのです。

 

確かに相続はいつ発生するかわかりませんので、そのときに偶然、業績が思わしくなければ、5年間の雇用を維持するのは難しいかもしれません。しかし、贈与であれば、時期を選ぶことができます。5年程度の雇用の見通しがつくときに実行することができるのです。

 

また、贈与の際に納税猶予を利用すると、相続で納税猶予を利用しても8割の雇用確保の条件は付かなくなりますので、相続での納税猶予が使いやすくなるというメリットがあります。

 

時間をかけて事業承継の準備をしていけば、贈与税の納税猶予の利用条件をクリアすることは難しくありません。利用価値は高いですから検討をしてみてはいかがでしょうか。

 

贈与時点で納税猶予を利用した後、相続時にも利用するかどうかは後継者の気持ち次第です。納税猶予を受けていると、株式を売却できないなどさまざまな制約もあります。それをどう考えるかによって、利用するかどうかを選択するとよいでしょう。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『財を「残す」技術』 から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

財を「残す」技術

財を「残す」技術

齋藤 伸市

幻冬舎メディアコンサルティング

成功したオーナー経営者も、いずれは引退を考えなければいけない。そのときに課題になるのが、事業とお金をいかに残し、時代に受け継ぐかである。 保険代理店業を主軸として、オーナー社長の資産防衛と事業承継をコンサルティ…

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