社内書類の形式には会社のノウハウが詰まっている
前回に引き続き、事業のハード面をスムーズに引き継ぐために「引継ぎマニュアル」の作成方法について見ていきます。
③「帳票・書式の見方」を明文化する
社内で当たり前のように使われ、慣れ親しまれている帳票類や書式にも実は理念が隠されています。帳票類や書式には、企業のノウハウが詰まっています。
例えば、どんな製品を扱っているのか、製品をどのように処理するか、粗利が何%で利益が立つか、といったような情報は、帳票から読み取ることができます。ちなみに会社の性格によって、どの部門に使いやすい帳票になっているかが変わってきます。営業が花形の会社ならどうしても営業スタッフにとって使い勝手のいいものになっていることがあるのです。
自社独自の帳票や書式があるなら当然、その形式になっている理由があるはずです。既製品の帳票や書式を使っている場合でも、なぜそれが自社に適しているのかを考えるとともに、“備考欄”に書くべき内容などにも、理念の片鱗を見ることができます。社内書類は、各部署がその書式を使ってそれぞれどのように業務を行っているのかを俯瞰的に知ることができるとても便利なツールであるといえます。
現在の帳票類や書式を見直し、使われていない欄があれば削除したり、追加するべき項目があれば変更したりする作業を行い、その中で見て取れるノウハウがあればそれを明文化していきます。
【図表1 社内帳票の例(受注管理、売上伝票、見積書)】
社内帳簿には、それぞれの記入欄には、目的や意図があり、社内管理がしやすくなっているか、営業が使いやすくなっているかなど会社の特徴があらわれる。
組織図は理念が体現化されたもの
④「組織図の考え方」を明文化する
組織図というのは、ある意味で理念が体現化されたものです。業務の目的と役割を明確にし、組織ごとの“目標予算(目的)”を“人員(誰)”が“何名”で行うのかをあらわしているものが組織図であり、この組織を編成した経緯と考え方を明確にすることで企業の理念が明確になります。
また、例えば製品ごとの製造・営業までを一元化して管理する体系なのか、営業、製造といった業務ごとに分かれている体系なのかといったことを確認すれば、その企業の性質もわかります。社員50人程度の会社であれば、経営者も社員の顔が把握できていると思いますので、自分で組織図を引いてみるとよいでしょう。そして、今後継承するうえで、変えたほうがよいのか、このままでよいのか再考します。
ちなみに組織図は、考え方を変えるだけでいくつものパターンを構築することができるでしょう。例えば、取り扱い製品と事業所が複数ある製造メーカーの組織図の場合は、以下のような組織図例が考えられます。組織図もあわせて紹介しています。
●製品分担型組織A
取り扱い製品を事業部ごとに特化し、責任の所在を明らかにすることで、各部署が専門性をもって業務にあたる組織です。
【図表2 製品分担組織図A】
●製品分担型組織B
取り扱い製品を事業部ごとに特化し、全社で協力し合いつつ、各部署が専門性をもって業務にあたる組織もあります。
【図表3 製品分担型組織B】
●サポート重視型組織
生産した製品が正しく顧客の役に立ち、真の顧客満足の獲得を目指します。
【図表4 サポート重視型組織】
●地域特化型組織
地域ごとに活動権限の幅をもたせ、その地域性に対応してそれぞれが自由に活動します。
【図表5 地域特化型組織】
引き継ぎ名簿で人の「縁」を具体的に明文化する
⑤「引き継ぎ名簿」を作成する
長い年月をかけて培った“人の縁”を具体的に明文化する方法として、引き継ぎ名簿をつくるということがあります。名簿は住所や電話番号といった一般的な個人情報の他に、その人が自分にとってどんな存在かや、その人との主なエピソード、その人をあらわす“単語”などを明文化しておくととてもわかりやすいものになります。
なお、名簿は法人ではなくエピソードが具体的となる個人について作成していきます。例えば「困った時に支払いを待ってくれたA社」ではなく、「相談に乗ってくれたA社のBさん」といった具合です。名簿をつくる主な対象は以下の通りです。
●社員名簿
●仕入先・販売先といった取引先名簿
●その他自分の人生に関わった人
【図表6 引継ぎ名簿を作成する】
前回紹介した①~②と今回紹介した③~⑤の作業を並行して行っていくと、平均的には60日ほどで「引き継ぎマニュアル」が完成するはずです。こうして要点さえきちんと押さえれば、半年から1年もかけて引き継ぎを行う必要はまったくないのです。