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「節税になる」…年収2,000万円商社マンを誘った甘い言葉
商社に勤める総合職の佐藤正彦さん(仮名/48歳)は妻と私立高校に通う娘の3人暮らし。勤続20年を超え、日々の忙しさと引き換えに得た年収は約2,000万円。キャリアは順調そのものでしたが、「これだけ税金で引かれるのは、やはり惜しいな」と時折妻に洩らしていました。
そんなある日、職場の後輩から不動産投資の話を持ちかけられます。
「節税になるし、不労所得で悠々自適。ローンは家賃で返せますよ」
後日、紹介された営業担当者の資料をみると、物件は想定利回り7%の地方中古アパート。価格は6,400万円、自己資金は300万円ほどで始められるとのこと。「月々の収支はトントンですが、年間70万円ほどの節税効果が見込めます。ローン完済後は、そのまま老後の不労所得になります」という説明に、佐藤さんの心は大きく動きます。
老後の不安を減らしながら、節税もできる――。そんな理想的な話に思え、佐藤さんは契約書にサインをしました。しかし、この決断が、家族の笑顔を少しずつ奪っていく日々の始まりだったのです。
還付金の喜びは束の間…地方物件の厳しい現実
初年度の確定申告を終えた春、佐藤さんの口座には税金の還付金が振り込まれました。「本当に節税できた!」と喜び、妻にも誇らしげに報告。上機嫌で家族を少し豪華な旅行にも連れて行きました。
しかし、2年、3年と経っても通帳の残高は思うように増えません。たまに出る空室、定期的な修繕費、そしてローンや管理費などを支払うと、毎月の収支はわずかな赤字。確定申告で還付金を得ても、1年を通算しても手元にはほとんどお金が残らないのです。
「ローンが完済できれば家賃収入で毎月プラスになるからいいか」と自分に言い聞かせながら迎えた3年目、決定的な事態が発生しました。
退去が相次いで発生し、合計6部屋が空室になったのです。当然ながら、その間もローン返済と管理費は容赦なく引き落とされます。十分な家賃収入がないのに支出だけが続く状況。さらに、建物の老朽化で、給湯器の交換やクロス張り替えなども重なりました。
節税どころか、毎月の給与からアパートの支出を補填する生活へ。
「家賃でローンを返すはずが、給料でローンを返済している……」
いつしか、アパートの赤字を埋めるために働いているような感覚に陥っていました。
そして、その変化は家庭の空気にも影を落としはじめます。妻は当初、還付金で得た小さな贅沢に喜びましたが、赤字が続くにつれて表情は曇りました。
ある晩、娘の「パパ、なんで最近外食が減ったの?」という無邪気な一言が、食卓の空気を凍らせました。佐藤さんは言葉に詰まり、妻の顔をみることができません。隣に座る妻の顔からは笑顔が消え、なにもいわずに静かに箸を置く。その冷たい沈黙が、なによりも雄弁に夫への失望を物語っていました。
