「老後はなんとかなる」と言っていた父
「うちは持ち家だし、生活は年金でなんとかなる。お前に迷惑なんてかけないよ」
東京都在住の52歳会社員・原田智美さん(仮名)は、何度か父・幸雄さん(当時79歳)に「お金、大丈夫?」と尋ねたことがあるといいます。幸雄さんは地元企業で長年働き、65歳から老齢年金を受給。月12万円ほどの支給額に加え、地方都市にある持ち家で1人暮らしをしていたため、娘としても「節約すればなんとかなるのかな」と思っていたそうです。
ところがある日、何気なく実家を訪ねた智美さんは、父が床に落とした古びた財布を拾い上げた瞬間、驚くものを見つけてしまいます。
「古いレシートとか、病院の領収書かなと思って何気なく見たんです。そしたら手書きのメモに、〈〇〇金融/残額45万円/毎月返済2万円〉って書いてあって……。一瞬、なにこれ?と固まりました」
慌てて父を問い詰めると、幸雄さんは観念したように「実は去年、急に歯が悪くなってインプラントにしたら40万円以上かかって……それを分割で払っているんだ」と打ち明けたのです。
さらに詳しく聞いてみると、医療費や修繕費、生活費の補填のために消費者金融から何度か借りており、通帳の残高は1万円未満。年金受給日の直後に即引き落とされ、毎月の生活はギリギリだったといいます。
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によると、60代単身世帯の10.6%、70代単身世帯の7.0%が「借入あり」と回答。さらに借入理由として「日常の生活資金」「住宅の取得または増改築などの資金」「医療費」などが挙がっており、年金だけではカバーしきれない出費に悩む高齢者の実態が明らかになっています。
また、高齢者の中には「子どもには頼りたくない」「迷惑をかけたくない」という思いから、ギリギリまで一人で問題を抱えてしまう傾向があり、本人の表情や言葉だけでは状況を正確に把握できないこともあります。
