事業は量や数字で表せない「ソフト面」と、量や数字で表せる「ハード面」に分けることができます。今回は、事業のハード面を引き継ぐ方法について見ていきます。

事業の全容を知らなくても理解できる業務フローを作成

事業承継を行うための「引継ぎマニュアル」の作成方法を見ていきます。

 

【その3:引き継ぎマニュアルを作成する】

ハード面をスムーズに継承するために不可欠といえるのが、「引き継ぎマニュアル」です。事業継承の指針となるものですから、できるだけ丁寧につくる必要があります。以下にその作成内容を解説していきます。

 

①「業務フロー」を明文化する

どんな業務にも行程と流れが存在しますが、後継者があらかじめそのすべてを把握していることはなかなかありません。例えば後継者が技術畑の人材なら、製品化に関する知識には精通しているけれど、営業や配送などの仕組みを知らないということはよくありますから、もし社外から後継者を選ぶとするなら、なおさら業務への理解が必要です。

 

あらかじめ、自らのビジネスの全容を、自社をまったく知らない人に対しても理解してもらえるようにしておくことが大切になります。そこでまず行うべきは、業務フローの明文化です。ビジネスの流れを、実際の業務に照らし合わせながら具体的にまとめます。作業のイメージとしては、もし、経験があるなら「税務調査への対応」を思い浮かべてもらうとわかりやすいはずです。

 

例えば製造業であれば、一例として以下のような業務フローが想定されます。

 

商品企画→試験開発→価格設定→テストマーケティング→製品化→営業リスト作成→アポイント→商談→受注→受注処理→製作→配送・納品→納品処理→課金→回収

 

これらの流れをフローチャートに落とし込むことで、自社の「売り上げができる仕組み」を理解することができます。なおフローを作成する際には、営業、企画、製造といった各部門の責任者に加え、全体を把握している総務部部長などに確認しながら、できるだけ細かくつくると、より引き継ぎが円滑にできます。

 

【図表1 業務フローの明文化】

 

意思を伝えるために企業理念や行動規範を明文化する

②「自分の中のノウハウ」を明文化する

経営者には「ノウハウは自分の中にある」などという人がいますが、事業継承に関しては、そのような感覚的な手法の延長ではうまくいきません。自らが培っていたものをできるかぎり明文化することで、後継者にもより正確に自分の意思が伝わることになります。その際に効果的なのが、まずは企業の理念や信念と、行動規則を書き出すことです。

 

経営者独自のノウハウとは多くの場合、理念や信念などといった目に見えない原理に基づいての行動の結果であると考えられます。それを明文化することができれば、企業や製品の特徴としてダイレクトに理念を反映させることが可能です。ここで、理念・信念と企業や製品の特徴の一例を挙げておきます。

 

<理念→企業や製品の特徴

●顧客第一主義→価格設定

●サポート体制の充実

●先進技術→製品の独自性

●人には親切に→サポート体制

●質実剛健→製品の信頼性

●すべての人に対応できる→オプションの充実

●フットワークの軽さ→年中無休・24時間対応

 

また、有名企業の理念にも、企業の姿勢が如実にあらわれています。

 

例えば、アメリカで靴などアパレル通販を行うザッポスのコアバリューは、「サービスを通じて『Wow!!』(驚き)を届ける」です。事実、ザッポスは顧客サービスを重要視している企業です。また、京セラの稲盛和夫氏は「敬天愛人」を社是に掲げています。永谷園は、CMでもおなじみの「味ひとすじ」。お客様に満足してもらえるおいしさを追求し続けています。

 

「水と生きる」を理念に掲げるサントリーは、飲料やウイスキーなどの開発に力を注ぎながら、水の源である森林保全にも企業全体で取り組んでいます。つまり理念には、企業の姿勢であると同時に、もっとも重要視すべき基本的なノウハウが詰まっているのです。

 

こうして企業の理念や信念と、行動規範を明文化し、それをどのように事業上に表現しているかを明らかにすると、自社がこれまでどのように事業や顧客と向き合ってきたかが想像しやすくなります。もし明文化するのが難しければ、“自分の信念”と聞いて思いつく形容詞を数個挙げれば、自社の製品や価格設定についての関連性に気づくことができるはずです。

 

さらに、経営者個人の理念とそれをどう体現してきたかを書き出すことで、自分の中にあるノウハウが出てくることがあります。例えば、営業畑出身の経営者が「お客様を喜ばせる」という理念のもと「手土産を持っていく」「誕生日にはお祝いを贈る」など当然のこととして意識せずに行っていた小さなノウハウが、改めて明文化できることになります。

 

【図表2 ノウハウの明文化】

本連載は、2015年10月25日刊行の書籍『たった半年で次期社長を育てる方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった半年で次期社長を育てる方法

たった半年で次期社長を育てる方法

和田 哲幸

幻冬舎メディアコンサルティング

中小企業は今後10年間、本格的な代替わりの時期を迎えます。 帝国データバンクによると、日本の社長の平均年齢は2013年で58.9歳、1990年と比べて約5歳上昇しました。今後こうした社長たちが引退適齢期に突入します。もっと平…

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