旭日重光章(内閣府HPより)

勲章は、長年の功績を対象にする側面が強く、褒章は、勲章の対象になりにくいものの、顕著な功績と認められるものに授与されるようです。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す/不可能を可能にする/日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

城山三郎氏が叙勲を辞退した理由とは?

作家の大江健三郎さんは1994年にノーベル文学賞を受賞しました。しかし、文化勲章は辞退しました。大江さんは「私が文化勲章の受章を辞退したのは、民主主義に勝る権威と価値観を認めないからだ。これは極めて単純だが、非常に重要なことだ」と語ったとされています。

 

受けたノーベル文学賞については「スウェーデン国民から贈られたと言える」と述べたといいます。文化勲章は日本国民から贈られるものではない、と言いたかったのでしょうか。

 

女優の杉村春子さんも文化勲章を辞退しました。『勲章 知られざる素顔』によれば、作家の城山三郎さんは、大江さんが文化勲章を辞退したことを支持し、「文化勲章は政府、文部省といった国家権力による査定機関となっている。言論、表現の自由に携わる者は、いつも権力に対して距離を置くべきだ」と言及しました。城山さん自身も紫綬褒章を辞退し、「おれには国家というものが最後のところで信じられない」と妻に言ったといいます。

 

こうした人たちは、私たちに大切なメッセージを伝えようとしています。

 

いかがでしょうか。勲章を喜ぶ人、良しとしない人、人は様々です。私は、人はみな平等だと考えているので、国家が国民を格付けするような仕組みには違和感を禁じ得ません。また、勲章・褒章の制度には、国家の論理を「個」に押し付けようとする力が働いているような気がしてなりません。勲章のために、自分の信念を曲げたり、閣僚や経済団体トップの椅子などに長く執着し、老害ぶりをまき散らしたりしている人がいるとすれば、本末転倒です。

 

そんな勲章だとしたら、社会を息苦しくしかねません。そんな勲章だとしたら、いらないかもしれません。国家、行政が気付かない巷では、叙勲される人に負けず劣らず、努力を重ね、人の痛みを受け止め、一生懸命人々の役に立っている人が大勢います。このことを忘れないようにしたいと思います。

 

勲章とは少し異なりますが、アメリカのメジャーリーグで記録と記憶に残る活躍をしたイチロー元選手は、国民栄誉賞を3回辞退しました。受賞の打診をした日本政府に対し、イチローさんは「人生の幕を下ろした時に頂けるよう励みます」と回答したということです。さらに、2019年には「4回目の国民栄誉賞の打診を辞退した」と一部のメディアが報じました。

 

自分の力で、自分の歴史を積み上げ、自分の時代を切り拓いてきたイチローさんは、こうした政府が与える「賞」についてどう考えているのか。いつか本音を聞いてみたいです。

 

岡田 豊
ジャーナリスト

 

 

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本連載は、岡田豊氏の著書『自考 あなたの人生を取り戻す/不可能を可能にする/日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)より一部を抜粋し、再編集したものです。

自考

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岡田 豊

プレジデント社

アメリカでの勤務を終えて帰国した時、著者は日本は実に息苦しい社会だと気付いたという。人をはかるモノサシ、価値観、基準の数があまりにも少ない。自殺する人があまりにも多い。笑っている人が少ない。他人を妬む。他人を排…

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