旭日重光章(内閣府HPより)

勲章は、長年の功績を対象にする側面が強く、褒章は、勲章の対象になりにくいものの、顕著な功績と認められるものに授与されるようです。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す/不可能を可能にする/日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

叙勲は経済界をコントロールする狙い?

■あなたは勲章をもらいますか、国民を格付けする「生前叙勲」

 

勲章をもらう人は、すごいなと素直に思います。たくさんの汗をかき、たくさんの知恵を働かせて頑張ってきた人たち。形はいろいろあれど、国家のために、社会のために、人々のために、役に立ってくれているのでしょう。頭が下がります。

 

でも、忘れてはいけないことは、勲章をもらわない人でも、一生懸命に頑張って、人々の役に立っている人が大勢いるということです。勲章とは何なのか。考えてみたいと思います。

 

内閣府のホームページには、次のように書かれています。「栄典は、国家又は公共に対し功労のある方、社会の各分野における優れた行いのある方などを表彰するもので、勲章及び褒章があります」。勲章は憲法に根拠があって、候補者を各省庁が推薦し、内閣府が審査して原案をまとめ、閣議で決定。天皇が授与する形になっています。

 

勲章は、長年の功績を対象にする側面が強く、褒章は、勲章の対象になりにくいものの、顕著な功績と認められるものに授与されるようです。勲章には序列があり、実質的にランク付けされています。

 

生存者への勲章授与は、1946年5月の閣議決定で一時停止されていましたが、第2次池田内閣が、1963年7月の閣議決定で再開させました。民間人も多く対象とした、この生前叙勲をめぐっては「政府が、経済界をコントロールする狙いもあった」(民間企業中堅幹部)といった指摘があります。つまり、政府が、勲章をちらつかせ、企業経営者をある程度思い通りに動かそうという恣意的な力が働くのではないかという見方です。

 

実際、叙勲対象者の選考基準や選考の過程が分かりやすく公開されているとは言い切れないため、こうした疑念が出てきてしまいます。

 

そんな叙勲を、辞退あるいは拒んだと言われている人たちは、たくさんいます。次の人たちがその一部です。

 

福沢諭吉さん、市川房枝さん(婦人運動家 参議院議員)、宮澤喜一さん(首相)、土井たか子さん(日本社会党委員長 衆議院議長=女性初)、細川護熙さん(首相 日本新党代表)。

 

経済界では、石田禮助さん(三井物産社長 国鉄総裁)、木川田一隆さん(東京電力社長 経済同友会代表幹事)、中山素平さん(日本興業銀行頭取 経済同友会代表幹事)、相田雪雄さん(野村證券会長)、武井正直さん(北洋銀行頭取)、前川春雄さん(日銀総裁)。

 

『勲章 知られざる素顔』(栗原俊雄著、岩波新書)によれば、野村證券会長だった相田雪雄さんは「およそ人の功績にどうして等級をつけるのか。省庁の官僚が、小賢しくもポイントを付けている。毎年時期になると企業ではトップの受賞に向けて狂奔する有り様は見るに堪えない。各会社、それも一流と自称・他称する企業では先輩者の受賞のために狂奔するのであり、その為のエネルギーたるや大変なものである」(1996年)と語っていたといいます。

 

私は記者として相田さんを取材したことがあります。印象的だったのは、相田さんは「民」であることに誇りを持っている経営者でした。

 

北洋銀行の頭取だった武井正直さんは「人が人に対して『お前は勲何等だ』なんて格付けするのは失敬千万」(1998年)と言いました。

 

また共同通信の編集主幹だった原寿雄さんは1999年、『部落解放研究』で出した論文「人権とマスメディアのあり方」の中で、「典型的な人間差別に目をつぶり、受勲者の喜びの声をはじめニュースとして大きく扱うことに、メディアは何の疑問もないかのようである」と主張しました。

 

次ページ城山三郎氏が叙勲を辞退した理由とは?

本連載は、岡田豊氏の著書『自考 あなたの人生を取り戻す/不可能を可能にする/日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)より一部を抜粋し、再編集したものです。

自考

自考

岡田 豊

プレジデント社

アメリカでの勤務を終えて帰国した時、著者は日本は実に息苦しい社会だと気付いたという。人をはかるモノサシ、価値観、基準の数があまりにも少ない。自殺する人があまりにも多い。笑っている人が少ない。他人を妬む。他人を排…

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