老後の生活を安心して送れるよう、現役時代から資産を増やしておくことは大切です。しかし、資産を増やすこと自体が目的になってしまう人も少なくありません。今回は、都内で年金生活を送る田中さん(仮名・75歳)の事例と共に、お金との向き合い方について小川洋平FPが詳しく解説します。

(※写真はイメージです/PIXTA)
私、お金が使えないんです…資産1億円・年金月23万円・住宅ローン完済で“あり余る資産”を持つ75歳男性。老後不安とは無縁に見えるが「周囲に理解されない深刻な悩み」に苛まれるワケ【CFPの助言】
金融資産1億円、住宅ローン完済、年金も十分なのに「お金を使えない」
田中誠一さん(仮名・75歳)は都内近郊の住宅地で年金生活を送っています。現役時代に堅実な生活を続けながら資産を築き、退職時には金融資産は1億円を超え、住宅ローンも完済している状況。年金も夫婦合わせて月23万円を受け取ることができています。
「老後不安」などという言葉とは無縁に思える状況なのに、田中さんはひそかな悩みに苦しんでいました。それは、お金をうまく使えないことです。
一般的にはお金がないので使えない状況に苦しむものですが、田中さんの場合はその逆。お金は十分にあるのに使えないことに悩んでいたのです。
その原因は、「資産が減ることへの恐怖」でした。
実際、田中さんは、リタイア後は特にシビアに家計管理を行っており、65歳で退職してから10年たったにも関わらず金融資産はほとんど減らさずにいました。
元々プライベートでの人付き合いがあまりなかった田中さんは、町内会の懇親会に誘われてもほぼ毎回断り、家族での旅行ですら、お金を使うことへの恐怖で行けなかったのです。
田中さんは、先行きが見えない老後の生活を心配するあまり、お金を使うことに罪悪感を覚え、若いころからコツコツ積み上げてきた資産が減ることを極度に恐れていました。
周囲にこんなことを言っても「贅沢な悩みだ」と一蹴されるかもしれません。しかし、このままお金を使わずに人生を終えることになったら後悔するだろう……。そう考える田中さんにとっては深刻な悩みでした。