定年を迎えた佐藤さん(仮名・65歳)は、退職金を手に自由な生活を満喫していました。しかし贅沢な出費や投資の失敗で、気がつけば資産は急速に減少。「これだけあれば安心だろう」と思っていた老後資金も枯渇の危機に陥ってしまいます。定年後の資金管理で後悔しないためには、どんな準備が必要だったのでしょうか。本記事では、佐藤さんの事例とともに「老後資金を守るためのポイント」について、CFPの伊藤寛子氏が解説します。

総資産5,000万円・年金月30万円の65歳元部長、高揚感に包まれながら会社員人生に幕。余生を満喫・収入減への対策も始めて“ご満悦”だったが…わずか3年で「老後資金枯渇」の危機に転落したワケ【CFPの助言】
ようやく迎えた65歳の定年退職で手にした達成感と退職金
佐藤さんは65歳の誕生日を迎え、新卒から勤めた会社で定年退職を迎えました。入社以来、営業部門で活躍し、中間管理職、部長職と昇進。最高年収は1,500万円に達し、売上目標や部下の管理に奮闘しながら、会社に貢献し続けました。
佐藤さんは、ちょうど会社が60歳定年から65歳定年制度へ移行したタイミングに重なりました。役職定年でポジションと年収が低下してもこれまでと同じ成果を求められること、役職定年後に働く年数が延びたことで、モチベーションの維持が難しくなっていました。
それでも、なんとか辞めずに働き続けた佐藤さん。ようやく65歳の定年を迎えた際には「長い間、本当に頑張った……」という達成感とともに、家族や同僚たちとのお祝いを重ね、高揚感に包まれていました。
それからしばらくすると、待ちに待った退職金2,500万円が振り込まれました。それまでの貯蓄と合わせて5,000万円を超えた預金残高に、これで老後生活も安泰だろうと考えていたといいます。
ご褒美で散財しつつ、お金を増やすことも考えたいと投資セミナーに参加
定年を迎えたら、「長年頑張ったご褒美」として思い切りやりたいことをしよう、と決めていた佐藤さん。平日の昼間にゴルフや旅行を楽しみ、退職記念として憧れのブランドの高級腕時計を購入しました。
また、長年支えてくれた妻とビジネスクラスで海外旅行へ。どちらも高額ではありましたが、年金生活に突入する今、一度きりのことだから、と奮発しました。また返済が残っていた約1,000万円の住宅ローンも、退職金で完済しました。
さらに、自宅のバリアフリー化も退職金を使って早めに済ませておくことに。見積もりを取ると約500万円と予想以上の金額でしたが、退職金を受け取った今のほうがやりやすいだろう、とリフォームを決断しました。
こうしてお金を使えば、当然通帳の残高は減っていきます。使うばかりではなく、増やすことも考えていかなくては、と思った佐藤さん。たまたま目にした、証券会社の老後資金の運用をテーマとしたセミナーに参加しました。