現職の社長や会長が後継社長を選ぶ
■自分の子飼いを後継社長に選ぶ経営トップ、衰退する企業の姿
1990年代、関西に本社を構える世界有数の電機メーカーの会長を取材した時のことでした。会長は、就任したばかりの新社長をすこぶる褒めていました。
「〇×君は社長に決まってから、創業者の著書を本当に熱心に勉強しています」
この会社の歴代の社長は、創業者の経営理念をしっかりと受け継ぐことが求められているのだと感じました。偉大な創業者の経営理念は確かに重要でしょう。
しかし、偉大な創業者の経営理念も、時代の変化とともに廃れ、通用しなくなる部分も出てくるはずです。過去の“遺産”に依存し、自考しない企業はいつか衰退します。この電機メーカーは現に、かつての強い輝きを失いました。どうイノベーションを起こし、どう再興するのか、模索の途上にあります。
企業。それは、日本経済を牽引し、雇用を生み、日本人の生活を支える大切な存在です。良い企業が増えることは、私たちが豊かで幸福になることに欠かせません。
私は記者として、企業の方々から大切なことをたくさん教えていただきました。企業の人たちは、常に競争と勝負にさらされ、真剣に今と明日を考えています。企業と企業人が輝きを失えば、日本の未来はないと思います。企業は大企業も零細企業も、とても大切な存在です。
そんな企業のトップに誰が就くのか。これは企業の命運を左右する重要な選択です。実際には、現職の社長や会長が、後継社長を選ぶケースが多いのではないでしょうか。
「自分の言うことを聞き入れる後継者を選ぶ」
これは暗黙の“定石”のひとつかもしれません。自分が社長を退いて会長になった後も、自分の言うことを聞く社長を選んでおけば、会長などとして自分のポジションは安泰です。自分のやり方と相反する社長を後継に選べば、それまでの自分のやり方を否定され、屈辱を味わわされるかもしれません。自分が冷遇されたり、社外に放り出されたりする心配も出てきます。
しかし、それまでの自分の経営は、すべてが正しかったのでしょうか。自分のやり方を抜本的に見直し、新たなイノベーションを起こしてくれる後継者を選ぶことがあってもいいのではないでしょうか。自分の後継社長を選ぶことは「社長の最後の大仕事」です。最後の大仕事で自考を放棄し、失敗するケースは意外に多いのかもしれません。自考のない後継者選びは「日本が30年を失った」理由のひとつに挙げられると思います。
最近は、コーポレートガバナンスを強化しようと、「社外取締役」制度を導入する企業が増えています。しかし、起用する社外取締役が、その企業トップと馴なれ合いの関係にあるのでは、ほとんど無意味です。義理や付き合いで、仕方なくその人材を社外取締役に起用しているケースもありそうです。
そんな社外取締役の力量には疑問が付きまといます。名の知れた有名な人物を社外取締役に据えてPRする企業も多い。そうした人気の社外取締役は、他の企業からもお声がかかり、社外取締役を複数かけもちしたりしています。
そんな「社外取締役業」の人は、どこまで細かく、真剣にその企業のことをチェックしているのか。“見栄え”のいい社外取締役をそろえている企業ほど、注意した方がいいかもしれません。本物の経営陣が真剣に舵かじ取りしている企業には、社外取締役など必要ないでしょう。