「あと少し、老後資金があれば……」と考えるのは、多くの年金世代に共通する思いです。64歳のAさんも、そんな思いから株式投資に退職金を投じました。「安定した配当収入が得られる」と期待したものの、株価の急落や配当減額に翻弄され、思わぬ結末に。しかし、これは決して他人事ではありません。同じ轍を踏まないためにも、今回は、64歳Aさんの事例をもとに、シニアの投資の注意点について、FPの三原由紀氏が解説します。

老後は妻と日本中の温泉巡りを…年金見込額22万円・資産3,000万円の64歳市役所職員「あと数万円あったら」少しの贅沢を求めた結果、待ち受けていた“悪夢のような毎日”に憔悴【FPの助言】
「あと少し老後資金があれば」少しの贅沢のために冒険を選んだが…
Aさん(64歳)は、元中堅電機メーカーの総務部長。現在は、会計年度任用職員として地元の市役所で働いています。
1年半前、会社が実施した早期退職プログラムに応募し、退職金2,000万円を受け取りました。それに加えて、3年前に他界した母親から相続した資産1,000万円を合わせた3,000万円を持っていました。
当時62歳だったAさんは、「これまで仕事と家庭の往復で自分の時間がほとんど取れなかった」と振り返ります。妻(現在64歳・元パート勤務)との二人暮らしで、来年から始まる年金生活では夫婦で月22万円ほどの見込み額です。
「母親の介護もあり、妻には負担をかけてきた。旅行もできず、海外旅行は新婚旅行のハワイだけ。贅沢は望まないけれど、リタイア後は妻と一緒に、国内の温泉地巡りをしたい」「でも、年金だけでは厳しい。あと数万円の余裕があれば……」
家計を見返すと、月数万円の取り崩しなら問題ない状況ではありましたが、貯金残高が目減りし続けるのは、気分が滅入るものです。物価上昇や将来の施設入居を考えると、少しでも手持ち資金を温存しておきたい気持ちもありました。
そんなとき、投資に詳しいと自称する友人から「資産の取り崩しが嫌なら高配当株がいいよ」と聞いたAさんは、投資を決意します。年金の上乗せ収入を得るために、全資産3,000万円のうち2,000万円ほどを投資に回そうと考えたのです。
2,000万円なら、年間配当利回り4~5%であれば、税引き後の手取りで月6~7万円を確保できます。それだけあれば夫婦の夢が十分叶います。
かつて会社の経理部門と関わる業務をしていたこともあり、「自分なら大丈夫」と、根拠のない自信を持っていたAさん。しかし、投資の実践経験はなく、「高配当株は元本を減らさないで配当収入が得られる堅実な投資」という表面的な理解だけで、書籍やYouTubeの情報を頼りに独学で学び始めました。
その後、ネット証券で口座を開設したAさんは、利回りが高い5つの銘柄を購入しました。「銘柄を分散すれば十分リスク分散になるだろう」という考えからでした。