3億円の設備を「廃棄処分」へ
主力商品のバターピーナッツは、かつて乾物商から生産業に鞍替えすることになった重要な事業でしたが、「安さ」という圧倒的な強みを持つ中国との勝負の結果は明らかでした。しかし、落ち込んでいる暇はありません。バターピーナッツに頼っていた父の時代の会社から脱皮して、心機一転、第2の出発をしようと決めました。
工場にはバターピーナッツの生産設備がありました。バターピーナッツが売れていた時代から稼働している古い機械で、成長を支えてきた同志でもあります。経営としてもバターピーナッツは主力商品だったため、機械類への投資が大きく、稼働中の設備には約3億円のお金を注ぎ込んでいました。
バターピーナッツの注文が完全にゼロになったわけではありませんが、注文量を踏まえるなら1台あれば十分です。実際、残りの機械はほとんど使うことがなく、再び活躍する機会も見込めませんでした。
再出発の第一歩は、機械類の処分です。この時、私は機械を捨てなければならないと思いました。機械との決別です。機械を処分し、工場内のスペースを作ります。新たな事業を生み出し、再出発するのであれば、まずは過去を捨て、過去の象徴であるバターピーナッツの機械から離れることから始めなければならないと考えたのです。
私は工場の従業員を集めて、「処分するバターピーナッツの機械類を、きれいに塗装するように」と指示しました。間も無く処分する機械ですが、長年にわたって活躍してくれたわけですから、せめて感謝を込めてお礼に、ペンキが剥げた部分をきれいに塗り直してから処分しようと考えたのです。
ペンキを塗り直したら次は、機械の分解です。バターピーナッツの注文が減り、手が空いた従業員とともに、機械を分解して構造を学びました。焼カシューとタマゴボーロも、それほど注文が多いわけではありません。そのため、従業員らも交えて、機械の構造を学び、生産効率を高めるためのアイデアを練りました。
分解した機械は、しばらくして鉄のスクラップ業者が引き取っていきました。
「スクラップの代金です」
業者はそう言うと、鉄やアルミの代金として4万2000円を私に手渡しました。3億円近くかけて作った設備が、4万2000円です。お金を受け取り、業者を見送ると、自然と涙が溢れてきました。機械とともに今まで積み上げてきた私の会社の活動の、成れの果てのように思えたからです。
悔しさと悲しさを感じながら、同じ失敗は繰り返さないと誓いました。こまめに機械を整備して、社の設備を美しく維持できるような、着実な経営をしていこう。そう胸に刻みながら、再出発の決意がさらに固くなりました。
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