売り上げ半減で赤字転落
機械を処分した後の工場は、清々しいほど広く感じられました。1円も生まなくなった広い空間で、新たに事業を始めなければなりません。カシューナッツが売れて、ここに焼カシューの機械が増えるのか、あるいは、全く新しい商品を作る機械が並ぶのか、先のことが全くイメージできませんでした。
一方で、従業員たちの間にはそれほど悲壮感はなく、むしろ楽しそうな表情を浮かべて壁や床のペンキ塗りをしています。何しろ、注文が減って時間が余っています。稼働中の機械も順番に塗り直し、機械の塗り直しが終わったら、工場の外壁や屋根なども塗り直しました。
「豆職人ではなくペンキ職人ですね」
従業員の中からはそんな声も聞こえてきます。ペンキ塗り、掃除、倉庫の片付けがひと通り終わったら、処分した機械で学んだことを生かし、稼働中の機械も順番に分解掃除します。
売り上げが減っていく一方、工場は日に日にきれいになっていきました。社長就任時に課題に感じていた品質管理の問題が、工場をきれいに保つという点では着々と解決していったのです。
深刻だったのは売り上げです。私の入社時の売り上げは10億円ほどありました。しかし、バターピーナッツの機械を処分した時、売り上げはすでに半減していました。打開策はありません。再出発を掲げたものの、再出発の計画もありません。
売り先を開拓してみよう、新しい商品を作ろうなどと思うことはありました。しかし、チョコ菓子や自社ショップの失敗経験が頭をよぎり、挑戦することに臆病になっていました。
このころから、私は不眠症になりました。資金がなくなる、従業員の給料が払えなくなる、原材料の支払いができなくなるなど、勝手に不安が膨らんでいきます。なんとか睡魔を呼ぼうと、布団の中で難しそうなビジネス本を読みますが、そこで「利益を出さない企業は悪である」といった一文を見つけ、さらに眠れなくなります。
そんな日々を繰り返しながら、結局、バターピーナッツ事業を大幅縮小したこの年、私の会社の業績は赤字となりました。創業以来、初めての赤字でした。
問題は、今期だけに限らず、来期も、その次の期も赤字になる可能性があったことです。中国製のバターピーナッツはさらにシェアを伸ばし、私の会社のバターピーナッツは最終的にはゼロになります。この減少分を補える手立てがない以上、赤字から抜け出すことはできないのです。
池田 光司
池田食品株式会社 代表取締役社長
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