国税徴収法を改正、「徴収職員の管理下」へ移す仕組みを整備
今回の改正は、この実務上の壁に対応するものだ。令和8年度税制改正では、国税徴収法に「特定電子移転財産権」に関する徴収手続が整備された。
「特定電子移転財産権」とは、第三債務者等がない無体財産権等に係る権利で、登記等を必要とせず、電子情報処理組織を用いて移転するものをいう。暗号資産などを念頭に置いた制度である。
改正後は、こうした財産の差押えについて、徴収職員の管理へ移す方法が整備される。さらに、その方法によることが困難な場合には、財産を移転できる者に対し、徴収職員の管理下へ移すよう命じることができる。
これにより、自己管理ウォレットの暗号資産についても、把握された財産を実際の徴収につなげるための手続が明確になる。
貝井税理士は、今回の改正について次のように評価する。
「今回の改正の意義は、こうしたケースにおいて、罰則付きの移転命令によって暗号資産を徴収職員の管理下へ移し、滞納税額の回収につなげやすくする点にあります」
約5億円の暗号資産取引、約2億5,000万円を追徴された事例も
今回の制度整備の背景を考えるうえで、具体的な事例がある。
内閣府の「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」では、暗号資産取引によって約5億円の所得を得ながら申告せず、加算税などを含めて約2億5,000万円を追徴された事例が紹介されている。
その後、保有する暗号資産の価格が下落し、本人は「価格が上昇したら売却して納付する」と説明したものの、自主的な納付には至らなかったとされる。
ただし、公表資料から約2億5,000万円の全額が回収できなかったと確認できるわけではない。この点について、貝井税理士は慎重な評価が必要だと指摘する。
「この事例について、約2億5,000万円の全額が回収できなかったとまでは公表資料から確認できません。ただ、自己管理ウォレットの暗号資産を把握できても、本人の協力なしに換価・回収することが難しかったという、従来制度の問題を示しています」
ここで重要なのは、「税務当局が暗号資産の存在を把握できない」という問題と、「把握できても実際の徴収につなげることが難しい」という問題は別だという点である。
今回の改正は、後者への対応を強化するものといえる。
