「ここなら安心だね」息子にも勧められて決めた住み替え
81歳の澄江さん(仮名)は、夫を亡くしてから7年間、一人で暮らしてきました。
自宅は築40年近い戸建て。近所には顔見知りもいて、買い物にも大きな不便はありません。
それでも80歳を迎えたころから、長男の浩二さん(56歳・仮名)は母の生活を心配するようになりました。
きっかけは、澄江さんが自宅で転んだことでした。幸い大きなけがはありませんでしたが、浩二さんが知ったのは翌日のこと。
「何かあったら、すぐ電話してよ」
そう言われても、澄江さんは「この程度で仕事中に電話するのも悪いから」と答えました。
浩二さんは車で40分ほど離れた場所に家族と暮らしています。それまでは月に3、4回ほど母の家を訪れ、重い物を買いに行ったり、電球を交換したりしていました。
そんななか、親子で見学したのがサ高住でした。
個室があり、食事は希望すれば提供を受けられます。スタッフによる安否確認もあり、何かあれば相談できます。
国土交通省によると、サ高住はバリアフリー構造など一定の住宅要件を満たし、少なくとも安否確認と生活相談のサービスを提供する高齢者向け住宅です。介護施設そのものとは異なり、介護サービスの提供方法などは住宅によって異なります。
「ここなら安心だね」
見学を終えた浩二さんは、そう言いました。
澄江さん自身も、階段のある戸建てに一人で住み続けるより安心だろうと思いました。自宅はひとまず空き家のまま残し、81歳でサ高住へ移ります。
入居直後は浩二さんも頻繁に訪ねてきました。足りない日用品を買い、部屋に小さな棚を設置。週末には妻と一緒に来て、3人で昼食をとることもありました。
澄江さんも、新しい暮らしに少しずつ慣れていきます。
ところが、2ヵ月ほど経ったころから、浩二さんが来る回数は減りました。週末になっても来ない。翌週も、「今週は仕事があるから」と電話だけでした。
それまで月に3、4回は顔を見ていたのに、1ヵ月近く会わないことも出てきました。
澄江さんは電話で尋ねました。
「最近、忙しいの?」
「まあね。でも、そっちは何かあっても人がいるから安心だし」
悪気のない一言でした。それでも澄江さんには、「安心」という言葉が引っかかりました。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、60歳以上が住まいや地域の環境について重視することとして、「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」が61.4%、「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」が54.1%などとなっています。高齢期の住まいを考えるうえで、生活を支える環境は重要な条件です。
澄江さんも、生活面では以前より安心していました。ただ、それによって息子と会う機会まで減るとは考えていませんでした。
