「今日は私が出すから」いつしか当たり前になっていた支払い
「孫に何かしてあげるのが嫌だったわけではないんです。むしろ喜んでくれるのがうれしくて、私から出していたことも多かったんですよ」
そう話すのは、73歳の恵美子さん(仮名)です。
夫を6年前に亡くし、現在は一人暮らし。公的年金は月約15万円で、住宅ローンを完済した自宅に住んでいます。
恵美子さんには46歳の長女・香織さん(仮名)がいます。香織さんは夫と高校生、中学生の子どもとの4人暮らしです。
長女一家とは比較的近くに住んでおり、月に1、2回は一緒に食事をしたり、買い物へ出かけたりしていました。そんな日は、恵美子さんがお金を出すことが多かったといいます。
「せっかく来たんだから、好きなものを食べなさい」
外食をすれば4人分も含めて会計を済ませ、帰りに孫が欲しがった服や文房具を買うこともありました。
さらに、孫には会うたびに3,000円から5,000円ほどのお小遣い。誕生日や進級時には別にお祝いを渡していました。
一度に数万円を使うことはあっても、恵美子さん自身はそれほど気にしていませんでした。夫が存命だったころには夫婦の年金があり、現役時代の預貯金も残っています。
しかし、一人暮らしになって数年が経ったころ、通帳を整理していて気になることがありました。年金だけで毎月の支出を賄えているわけではなかったのです。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯では、1ヵ月の実収入は13万1,456円、可処分所得は11万8,465円。それに対し、消費支出は14万8,445円でした。平均では可処分所得を消費支出が約3万円上回っています。
恵美子さんも家計を改めて計算しました。固定資産税や家電の買い替えなどを含めれば、年金以外から出しているお金は思っていたより多くあります。
そこで、1年間に長女一家へ使った金額も大まかに書き出してみました。
外食、お小遣い、誕生日、進級祝い、洋服、旅行先でのお土産――。
合計すると30万円を超えていました。
「一つひとつは大したことがないと思っていたんです。でも全部合わせると、『こんなに使っていたの?』となりました」
次に長女一家と食事をした日、恵美子さんは会計の前に香織さんへ伝えました。
「これからは、毎回みんなの分まで出してあげられないから。今日は自分の分だけ払うね」
香織さんは少し驚いた様子でしたが、「分かった」と答えました。恵美子さんは、その場ではそれ以上説明しませんでした。
