「ちゃんと食べてる?」と聞いても「大丈夫」ばかりの長男
53歳の由美さん(仮名)の長男・拓海さん(23歳・仮名)が、地方の実家を離れて東京で働き始めたのは半年前のことです。
大学卒業後、都内の会社に就職。月収は額面で約24万円です。会社から住宅手当は出ません。
拓海さんが借りたのは、勤務先まで電車で40分ほどの場所にあるワンルーム。家賃は管理費を含めて月7万2,000円でした。
物件を探していた当時、由美さんは「もう少し会社に近いところにしたら?」と言いました。しかし、拓海さんは「近くすると家賃が上がるから」と断りました。
社会人になってからも、親子は週に何度かメッセージを交わしていました。
「仕事どう?」
「ちゃんと食べてる?」
由美さんが聞いても、返ってくるのは「普通」「食べてるよ」「大丈夫」といった短い返事ばかりです。以前から口数の多い息子ではなかったため、由美さんも深くは気にしていませんでした。
ところが、上京から半年ほど経ったころ、由美さんが東京へ行く用事ができました。
「せっかくだから部屋にも寄ろうか」
そう伝えると、拓海さんからすぐに返信が来ました。
「母さん、わざわざ来なくていいよ。外でご飯食べよう」
由美さんは、その言葉が引っかかりました。引っ越しを手伝ったとき以来、部屋へ行ったことはありません。
「散らかってるから嫌なのかな、くらいに思ったんです。でも、何度聞いても『来なくていい』と言うので、逆に気になってしまって」
結局、当日は駅で待ち合わせました。
食事をしながら話していると、拓海さんが「一回荷物を置きたい」と言います。そこで由美さんも一緒に部屋へ向かいました。
部屋がひどく散らかっていたわけではありません。ただ、由美さんが驚いたのは、冷蔵庫の中でした。卵、納豆、豆腐、作り置きらしいご飯。野菜はほとんどありません。
キッチンの棚にはカップ麺がいくつか置いてありました。
「これでちゃんと食べてるの?」
由美さんが聞くと、拓海さんは面倒そうに答えました。
「毎日これじゃないよ。昼は会社で食べてるし」
話を聞いていくと、平日の昼食は500円程度に抑え、夕食も自炊することが増えていました。
理由は単純でした。思っていたより、お金が残らないのです。
額面月24万円から税金や社会保険料などが差し引かれます。そこから7万2,000円の家賃を払い、さらに大学時代に利用していた奨学金の返還が月約1万2,000円。光熱費や食費、日用品、通信費なども必要です。
「別に生活できないわけじゃないよ。ただ、何も考えないで使えるほどは残らない」
