母自身は国民年金のみで月6万に満たない収入だ。父の年金からホーム代を除いた残りと、母の年金で暮らしていかなければいけない。家のローンは退職金で完済してあるので家賃支払いはないが、約3万円の管理費・修繕積立金は毎月支払っている。その他、生活費や税金、保険などの支払いもある。母の月額生活費が10万円以下というのは、決して安心できる金額ではない。
特養は、2割負担の父の場合、月額14~15万円(多床室)と安めだが、要介護3以上でないと入れないし、何年も入居待ちしている人も多いと聞く(このとき、父はまだ要介護2だった)。要するに、月額20万以上の壁は越えられなかった。母が心穏やかな老後を過ごせるように、と考えると、やはり特養がベストな選択肢だと悟る。
「2割負担ってなんのこと?」と思う方もいるだろう。簡単に解説しておく。
介護保険の利用者負担割合のことで、年金収入等の金額によって、負担する割合が増えるという仕組みだ。1年の収入が280万未満の人は「1割負担」、つまり1割の金額で各種のサービスを受けられる。280万円以上の人は「2割負担」、そして2018年8月からは、340万以上の人は「3割負担」という枠ができた。
この枠組みで言うと、父は2割負担なのだ。たとえば1万円の介護サービスなら、父は2000円で受けることができる。1割負担の人は1000円だ。
また、要介護度が上がるごとに、もろもろの金額設定は高くなる。年収スライド方式や要介護度に見合うサービスが高くなるのは当たり前の話ではあるが、1割2割といってもあなどってはいけない金額でもある。決してきれいごとは書かない。
施設選びは、「一に金、二にスタッフ(ソフト)、三に設備や立地(ハード)」だ。入居してみないと見えないことも多い。多いというか、見えないことだらけだ。しかもスタッフなんて、かなり流動的。介護施設が常に職員を募集しているのを見れば、入れ替わりの激しさも推して知るべし。
ホームはある意味、賭けでもある。ベストな場所を選びたいと家族なら誰でも思うが、運と縁が大きいことも確かだ。「うちは年金収入も少なくて無理だわ」と思う方もいるかもしれない。が、特養には1割負担の人もたくさんいる。
有料老人ホームは無理だが、特養ならば決して入れないわけではない。デイサービスやショートステイをうまく組み合わせて利用する手もある。要は、自分の親がどんな介護サービスが受けられるか、情報を得ることだ。
子供の責務としては、ケアマネさんとタッグを組んで、情報を得ること。親の介護に手は出さず(何も自らが介護しなくてもいい)、金も出さずに(親の収入の範囲内で)、口を出す(情報を得て最適な形を決める)。これに尽きる。
【次回に続く】
【第1回】「かってきたよ゜」父のメールに、認知症介護の兆しが見えた
【第2回】垂れ流しで廊下を…認知症の父の「排泄介護」、家族が見た地獄
【第3回】在宅介護はいたしません…認知症が家を「悲劇の温床」に変えた
【第4回】認知症介護の無力…父は排泄を失敗し、字が書けなくなった
【第5回】多額の年金をおろせない…「認知症の父」が母を号泣させるまで
【第6回】排泄失敗で「ごめんね」…認知症の父の変化に、翻弄される家族
【第7回】認知症の父「捨てるな!」…母、介護疲れで家族の思い出を処分
【第8回】老々介護という牢獄…心が壊れた母、床に転がる「認知症の父」
【第9回】「サヨウナラ」認知症の父を老人ホームに入れようとしたら…
吉田 潮