「老化は止められない」父のボケはいつからだったか
◆父、誇り高き、長続きしない男
2019年、私の父は78歳になった。超高齢社会の日本では「まだまだ若い」と思うかもしれないが、父はこの数年、猛スピードで老けていき、年齢不相応のボケっぷりを発揮した。
現在は自分の足で立つのもおぼつかない。ヨチヨチどころかヨボヨボ。足腰が衰弱し、車椅子がなければ外出できない。排泄の失敗は日常茶飯事で、紙パンツからもダダ漏れる。しかし、残念なことに大病もなく、内臓はすこぶる元気で、よく食う。
そんな父が老人ホームデビューすることになったのは、2018年の春だ。もうそろそろ1年半が経(た)とうとしている。そこに至るまでに紆余曲折あったのだが、母の介護疲労が限界を超えたというのが最大の理由である。一応、娘としてはあの手この手で父の老化防止策を講じてきたつもりだ。
正直に言う。「老化は誰にも止められない」と。
酒もタバコも嗜(たしな)まない父が、脅威のスピードで寝たきりまっしぐらになったのだから。アンチエイジングなんてウソっぱち‼と声を大にして叫びたい。ということで、晴れて老人ホームデビューを飾った父を祝って、老化の軌跡をたどっていこう。
父は新聞記者だった。2001年に定年を迎えた後、引き続き嘱託で5年間延長して働いた。閑職の部署ではあったが、たまに記事も書いていた。性格はというと、時折、瞬間湯沸かし器のようにカッとなって怒ることもあったが、基本的には物静かな人だった。いや、それは美化した表現だな。なんというか、常に人の言葉尻をとらえてはダジャレを言う人だった。
身長は174㎝と高いほうだが、決してスポーツマンではなく、運動とは無縁。むしろ運動音痴疑惑のほうが濃厚である。学生の頃、自転車で日本一周したとは聞いているが、当時の道路事情を考えると、どこまで本当に回ったのかはわからない。
ときどき、魔が差して、ゴルフのクラブセット一式を買ったり、高級なロードレースタイプの自転車を買ったりしていたが、ほぼ使わずにホコリだらけになっていた。三日坊主どころか、買っただけで満足し、興味が終了してしまう人だった。
かといって、読書や映画にハマって蘊蓄(うんちく)を垂れるタイプでもない。大勢でワイワイ集まって酒を飲んで、という豪快な人でもなければ、何かに没頭してその道を究める職人肌でもない。趣味は旅行と写真だけ。