多くの中高年が直面する「親の介護」問題。老人ホームへの入居に抵抗を持つ人も多く、「親の面倒は子どもが見るべき」と親族一同考えがちだ。しかし、フリーライターの吉田潮氏は、著書『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)にて、「私は在宅介護をしません。一切いたしません」と断言する。親孝行か、自己犠牲か。本連載では、吉田氏の介護録を追い、親の介護とどう向き合っていくべきか、語っていく。

意欲・根気・集中力が消え、「文化」がなくなる

◆父、文化がなくなる

 

2014年、父の行動がますますおかしくなってきた。母によれば、「食事を出した途端にパソコンの電源をつけたり、他のことをやり始めるからムカつく」のだとか。わざと嫌がらせをしているのか、ボケてしまったのかわからない行動が増えたという。一緒に暮らして、掃除・洗濯・炊事すべてを世話する人間からすれば、怒るのも当然のこと。

 

そもそも、父は家事を一切手伝わない人だった。そして人付き合いが不得手なほうで、友達も多くはない。非社交的な人間の余生に趣味は必須だが、その趣味の写真もパソコンの使い方もわからなくなってしまったのだ。

 

暇つぶしといえば娘たちに電話することくらいしかなかったのだろう。メールが打てなくなったもんだから、電話なのだ。こちらが忙しいときに限って頻繁に電話してくるのだが、用はない。会話も続かない。姉と「いよいよボケ到来!」と話した記憶がある。

 

本や新聞を読みたい、外に出かけたい、旅行したいなどの意欲は減少し、ぼんやりすることが増えた。父から「文化」がなくなったという感覚。それまでは闊達(かったつ)だった親が、急に老け込んだと感じたり、無気力になったと思ったら、すでにボケが始まっていると思ったほうがいい。

 

新聞を開いても実は読んでいない。テレビをつけていても、ほとんど観ていない。リモコンのボタンをやたら押しまくった挙げ句、契約していない有料放送の画面や砂嵐画面でフリーズし、元の地上波に戻せなくなる。そして電源を切る。これを繰り返していたら、もう始まっている。意欲がなくなるだけでなく、根気や集中力もなくなる。今さっきテレビで放送していた内容を聞いても、まったくわからないというのだ。

 

実は、このとき私はコクヨが販売しているエンディングノートを家族全員に配った。それぞれが必要事項を記しておくようにと渡したが、父は書かなかった。というか、書けなかった。意味がわからなかったのかもしれない。エンディングノートは心身とも健康なうちに渡さなければ無意味だと知る。時すでに遅し。

 

そして、2015年。父は頻繁に転ぶようになった。ちょっとした、本当にちょっとした傾斜でも足がもつれて転倒する。しかも防御すべき手が前に出ず、顔面から地面へと落ちる。当然、顔は流血と打撲の大惨事だ。2015年の年末には3回も転んだ。坂道でもんどりうって頭を強く打ちつけたときは、救急車も呼んだ。

 

検査をしても脳や骨に異常はないのだが、顔面は悲惨だ。試合後のボクサーのような顔なので、他人から「家庭内で虐待されているのではないか」と疑われるレベルである。骨折などのおおごとになれば、それはそれで大変なのだが、父は骨が異様に丈夫だ。アクロバティックにすっ転んでも、大事には至らない。正直、それも厄介ではある。

 

転倒につぐ転倒で、眼鏡も破損を繰り返し、とうとう父自身も眼鏡をかけなくなった。ずっとド近眼で子供の頃から眼鏡をかけてきた父。この世界を己の目で見届けようという意欲も減退してしまったようだ。

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    吉田 潮

    KKベストセラーズ

    多くの中高年が直面する「親の介護」問題。『週刊新潮』の「TVふうーん録」コラムニストで、フジテレビ「Live News it!」コメンテーターの吉田潮さんが、自分の父が「認知症」となった体験をもとに、本音を書き下ろしました。 …

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