多くの中高年が直面する「親の介護」問題。老人ホームへの入居に抵抗を持つ人も多く、「親の面倒は子どもが見るべき」と親族一同考えがちだ。しかし、フリーライターの吉田潮氏は、著書『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)にて、「私は在宅介護をしません。一切いたしません」と断言する。親孝行か、自己犠牲か。本連載では、吉田氏の介護録を追い、親の介護とどう向き合っていくべきか、語っていく。

施設暮らしは、家族が思うほど不憫でも不幸でもない

◆長い目で見れば「ちりつも」に注意

 

認知症の父のいる特養は、月額利用料が低めかつ安定しているが、オプションもある。月1回のヘアカットや想定外の薬剤費など、すべて市価に比べれば安価だが、ちりもつもればなんとやらだ。ケチくさい話だけど、具体例を記しておこう。

 

 

父は「謎のティッシュちぎり癖」があり、まとめ買いしておいたティッシュが一瞬カラになったことがある。日常生活の細かい部分に目を配る職員が補充してくれたりもする。

 

ただし、後日、利用料とともに代金が請求される。家族が用意しておけば激安品で済んだのに、気を遣ってくださったおかげで、肌触りのよい超高級な製品(母や私は絶対買わないタイプ)が用意されることもあった。これが無駄な出費となることもある。数十円~数百円でも、長い目で見たら大きい。そこは極力家族で準備しようと、母と誓った。

 

初めは、ヘアカットも美容師さんにやってもらったのだが、どうせハゲ散らかしているので、私たちがハサミで短くカットすればいいのではないか、という結論に達した。本人もヘアスタイルにこだわることがなくなったし、そもそも鏡をほとんど見ていない生活だ。

 

ただし、エレベーターに乗ったとき、エレベーター内の鏡に映る自分を見て、「俺、こんなに毛がなかったかなぁ……」と残念そうに頭を撫でまわしてはいるが。ごめんよ、まあちゃん。でも、これで経費節減。

 

では、現状として毎月いくらくらいになっているか。父の場合、降圧薬などの常用薬代と医療費(医者の定期的な診察代)も含めて、

 

2018年

4月 18万3230円

5月 17万8272円

6月 17万1580円

7月 18万2083円

 

このほかに、訪問マッサージを週2回利用して、月額約3000~4000円。ということで、月額は平均して18万円強、というところだ。

 

父は月額23万の年金収入があるが、18万強を差し引いて、母の手元に残るのが4万弱。母の年金額が月6万弱なので、母は10万円で暮らしている。大丈夫かなと思いきや、母から驚愕の事実を知らされた。

 

「あんたたちが子供の頃、生活費は月6万しかもらってなかったから。何十年もやってるから大丈夫だし、私ひとりだもの。そんなに使わないわよ」

 

え、子供ふたりを育てるのに、父は月6万しかくれなかったのか!? もちろん光熱費や学費などは別に払ってくれていたというが、食費と生活費を6万円で回していたのだと知って心底驚いた。母、すげえ。いや、逆にごめん。その昔、母の財布から1万円札を盗んだことがある身としては、かなりうしろめたい。

 

しかも、「あんたたちにお金を使わせるのは本当に嫌なのよ!」とめちゃくちゃ意固地でもある。何か買っていくと、「ちばぎん」の封筒に金を入れて、私に渡そうとする。

 

世の中には子供にたかる親もいるという。身分不相応の借金をこさえて、子供に払わせる親もいる。金にだらしない親のせいで、子供の人生が台無しになるケースも聞く。そういう親でなくて本当によかった。

 

ちなみに母と私は連絡ノートを作り、ホームを訪問した日に何があったか、書き綴るようにしている。ときどき父もそこに参戦して、何かを書いているのだが、文字と呼べるものではない。それも楽しいし、一種の機能訓練になる。書籍の第2幕では、この連絡ノートをもとに、老人ホームでの暮らしぶり、父の変身、母の心境の変化などを書き記していこうと思う。

 

 

部屋には認知症やケアマッサージの本も置いてある。足の裏をオイルマッサージすると、父は不覚にもよだれを垂らしたりする。また、水虫や湿疹、あざなどの皮膚の異変にも気づくことができる。たとえ素人であっても「見る」「触れる」の手足マッサージは効果的だ。一日中靴下と靴を履いている父の足は猛烈にくさいけれど。足湯専用の桶も用意して、ときどき足湯もさせている。

 

ホットタオルで顔や首を拭くのも、父は大好きである。熱い湯に浸して絞ったタオルを顔に当てると、心地よさそうにうっとりする。もともと風呂好き・温泉好きだった父が、今は週に2回しか入浴できない。不満に思っているかと思いきや、そうでもないらしい。時には面倒くさいと思うこともあるようだ。

 

「施設にいると、何もできなくてかわいそう」と不憫(ふびん)に思うことなかれ。実際は、家族が思うほど不憫でも不幸でもない。案外小さな喜びや快楽を見つけていることもあるのだから。

認知症の父を「否定しない・急がせない・焦らせない」

入所後「3か月」が勝負
入所後「3か月」が勝負

 

介護に関しては、いい本がたくさんある。専門家が書いたお金の本、家族にもできるケアや心がけの本など、ためになる本にも巡り合えた。

 

 

良書があれば、さりげなく母に勧めるようにしている。右馬埜節子(うまのせつこ)・著『認知症の人がスッと落ち着く言葉かけ』(講談社)。母もこれを読んで、過去の己の蛮行を反省したようだ。私自身は、太田差惠子(おおたさえこ)・著『親の介護には親のお金を使おう!』(集英社)が非常に心強かった。

 

逆に、芸能人の親の介護本はまったく参考にならないとわかった。介護の肝である「金」と「罪悪感」に関して、あまりに感覚がかけ離れすぎているからだ。

 

本を読んだり、自治体が行う認知症の講座を受けたりして、学んだのは「否定しない」「急がせない」「焦らせない」こと。さらに自己流で言えば、「友人や知人、会社員時代の人の訃報やお誘いは、父に伝えない」「父の怒りや寂しさを真に受けず、やんわり右から左へ受け流す」ことだ。同じ質問を10分の間に8回されても、8回とも同じテンションで答えることができるようになった。

 

入所して3か月経つと、確かに父は落ち着いてきた。3か月が勝負というのは本当だった。「いつまでもこんなところにいられないな」「そろそろ俺もここを卒業しなきゃ」とは言い続けているが、激昂することはなくなり、実に穏やかな日を迎えている(少なくとも私の前では)。

 

親や配偶者をホームに入れて、ありとあらゆる言葉を浴びせられ、罪悪感に苛(さいな)まれている人には、この3か月説を教えてあげたい。今は、親の施設入居で迷っている人、罪悪感を抱いている人の背中をそっと押してあげたい気持ちである。

 

 

【第1回】「かってきたよ゜」父のメールに、認知症介護の兆しが見えた

【第2回】垂れ流しで廊下を…認知症の父の「排泄介護」、家族が見た地獄

【第3回】在宅介護はいたしません…認知症が家を「悲劇の温床」に変えた

【第4回】認知症介護の無力…父は排泄を失敗し、字が書けなくなった

【第5回】多額の年金をおろせない…「認知症の父」が母を号泣させるまで

【第6回】排泄失敗で「ごめんね」…認知症の父の変化に、翻弄される家族

【第7回】認知症の父「捨てるな!」…母、介護疲れで家族の思い出を処分

【第8回】老々介護という牢獄…心が壊れた母、床に転がる「認知症の父」

【第9回】「サヨウナラ」認知症の父を老人ホームに入れようとしたら…

【第10回】年金「23万円」の認知症の父…施設探しで、経済的な壁に唖然

【第11回】認知症の父の絶叫「俺が死ぬのを待っているのか!」に母は…

【第12回】「包丁つきつけるから!」認知症の父に母絶叫、介護疲労の壮絶

【第13回】認知症の父が入所してわかった、「介護施設の思わぬ真実」

【第14回】私は父から「人間としての自由」を奪ったの?認知症介護の苦渋

 

 

吉田 潮

 

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    吉田 潮

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