多くの中高年が直面する「親の介護」問題。老人ホームへの入居に抵抗を持つ人も多く、「親の面倒は子どもが見るべき」と親族一同考えがちだ。しかし、フリーライターの吉田潮氏は、著書『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)にて、「私は在宅介護をしません。一切いたしません」と断言する。親孝行か、自己犠牲か。本連載では、吉田氏の介護録を追い、親の介護とどう向き合っていくべきか、語っていく。

滅多に来ない家族が施設に文句を言う必要があるのか?

入所後の壁① 入居者との相性

 

特養に入所できる条件は、要介護3以上だ。父は要介護4で、「排泄や入浴などの日常生活全般に全面的な介助が必要」。唯一、食事だけは介助不要。箸を使えるし、出された食事はいつも完食。食事は施設内で作られるので、できたてホカホカだ。自宅から持参した陶漆器を使えるし、悲惨なムショメシではない。毎日おやつもついている。

 

ただし、空間認識能力が低いため、とにかく服や床に食べこぼす。食堂の床は父が座る席の下だけ、食べ物がこびりついている。母も私も、行ったら必ず拭くようにしている。

 

 

入所してすぐに転倒も経験。尻餅程度でケガもなかったが、私たちが知らないところで頻繁に転んでいるようだ。しかも結構豪快に。「(父は)体が大きいから転ぶと怖いのよね、巻き込まれそうで」と入居女性から言われたこともある。彼女は身体的な介助は必要だが、認知症はない。テレビを観て政治談義ができるくらい聡明で、毎朝新聞も読んでいる。父にも時折話しかけてくれている。私も母も、おそらく父も、彼女のことは好きだ。

 

その一方で、大変な人もいる。認知症で徘徊が激しい人だ。ずっと歩き回るだけでなく、人の部屋に侵入して物を持ち出したり、失禁や脱糞をしてしまう。汚れた手で触りながら歩き回るため、入居者からは大顰蹙(ひんしゅく)。その蛮行にストレスをためる人もいて、時折職員やその人の家族に不満がぶつけられる場面にも遭遇した。

 

その人は父の部屋にも頻繁に来訪。ハサミや電気シェーバーが紛失したことも。返ってきたから問題ない。が、「夜中に誰かが入ってきて眠れないんだよ」と、父もぼやいていた。ものすごく些細なことかもしれないが、入居者同士のトラブルは想定外だった。背景が異なる人の共同生活だから、諍(いさか)いも当然起こる。

 

心の中では映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』と思うようにした。毒舌のアライグマもいれば、怒ると怖い木もいる。烏合の衆といったら失礼だが、十人十色。病気も老化も個性と受けとめるしかない。

 

また、忘れちゃいけないことがひとつ。父が不快だろうなと心配しすぎるのもよろしくない。実は、案外、視界に入っていなかったりもするからだ。ユニットには10名の入居者がいるが、父が把握しているのはほんの数人。つまり、ストレスになる以前に認識していない可能性もおおいにある。

 

施設の対応に文句をつける家族も多く、トラブルの原因になると聞く。でも、当の本人は認知症でそんなに理解していなかったりもする。24時間365日いる入居者がさほど気にしていないのに、たまにしか来ない家族が神経質になってイチャモンつけるケースもあるのではないか。

 

介護施設の職員が入居者を虐待したり、金を盗んだりといった事件は、大々的に報道されることが多い。逆に、職員が入居者の暴力で大怪我をしたり、精神的なダメージを負わされている事実は、報道されにくい。というか、されない。

 

施設に通ってみて、思うことがある。多くの施設はきっちりしている。スタッフも身を粉にして働いている。ごく少数の悪徳介護業者やクレーマーに近い家族がいると、事件として取り上げられて、大声で拡散されてしまう。印象操作の恐ろしさ、である。父はいいケアマネに恵まれて、いい施設に入ることができた。まずはその幸運を噛(か)みしめるべきだ。

 

報道と介護の現実は乖離している
報道と介護の現実は乖離している

母、「お父さんがかわいそう病」を再度発症

入所後の悩み② 母の罪悪感、再び

 

入所して1か月。多床室のほうも続々と埋まり、施設内は一気に人口が増えた。呼吸する管を通しているため、びっくりするほど大きな濁音を発し続ける人もいれば、徘徊して施設内パトロールしている人もいる。玄関は中から外へ容易に出られない仕組みなのだが、業者が開けた隙を見て外へ脱走する人もいれば、大声で家族に対する愚痴を言いまくって過ごす人もいる。

 

そんな折、母のあの病が再発した。「お父さんがかわいそう病」である。

 

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