多くの中高年が直面する「親の介護」問題。老人ホームへの入居に抵抗を持つ人も多く、「親の面倒は子どもが見るべき」と親族一同考えがちだ。しかし、フリーライターの吉田潮氏は、著書『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)にて、「私は在宅介護をしません。一切いたしません」と断言する。親孝行か、自己犠牲か。本連載では、吉田氏の介護録を追い、親の介護とどう向き合っていくべきか、語っていく。

「トイレの失敗」が外出不安につながる悪循環

◆父、リハビリ専門のデイサービス開始

 

父の運動機能低下が著(いちじる)しいので、要支援認定の不服申し立てをすることにした。どう考えても「要支援1」では軽すぎる。父の悪循環について考えてみたことがある。

 

足元のおぼつかなさ、転倒不安は外出恐怖となる。外へ出るのが億劫になる

家のコタツでコタツムリ(動かざるごと山の如し)

運動不足、カロリー過多、便秘

筋力低下、機能低下

さらに動くのが億劫になる

トイレに間に合わない、失敗の繰り返し

排泄不安で自信喪失

外出恐怖

 

とフリダシに戻って繰り返す。このままでは寝たきりまっしぐらだ。

 

特に、便秘が問題だった。父はもともとおなかが弱い人だったが、老化で腹筋が弱くなったせいか、便秘がちになった。温水洗浄で長時間刺激してもなかなか出ないため、タンクの水がなくなるほど水流を当てていたと記憶している。

 

一度、便秘薬を飲み始めたら、その常習性にまんまとハマってしまい、便秘薬がないと出なくなってしまったのだ。また、便秘薬の場合、飲むと激しく下痢になる。便意を我慢できなくなり、粗相も増える。出なければ苦しいし、タイミングをあやまると、トイレに間に合わずスプラッシュ、という地獄絵図である。

 

そこで、父を定期的に外出させて、運動させるために、リハビリ専門のデイサービスに通わせようと考えた。介護保険サービスを利用するので、ケアマネージャーとの密なお付き合いが始まる。現状を伝えつつ、父と面談もして、機能回復のケアプランを立ててもらった。

 

ケアマネさんがまず勧めてくれたのは、自宅から最も近い老人福祉センターだった。囲碁や卓球をしに来る元気な老人も多いようで、人気のある施設のようだ。でも、父はそういうタイプではない。社交的ではないし、そもそも体も動かない。「協調性が皆無なので、そういう和気あいあいのサークル活動は無理です。むしろ理学療法士にマンツーマンできっちり運動をサポートしてもらえるほうが性に合ってます」と伝えた。

 

また、父の状態からすれば、自宅までの送迎があるところでないと厳しい。そして機能回復をメインで、運動に力を入れているところが望ましい。ケアマネさんが父に尋ねた。「自宅に理学療法士が来てくれるタイプと、ご自身で通うタイプ、どちらがいいですか?」なんと父は「通うタイプで」と即答したのだ。

 

え、そうなの? もしかしたら「俺はまだ若い」というええかっこしいなのか、それとも本当は家の外に出たかったのか、はたまた、質問の意味を理解していなかったのか。ケアマネさんが紹介してくれたのは、「口腔ケアと運動」を売りにした施設と、ちょっとこじゃれたジムのような施設のふたつだった。後者のほうが自宅から近いし、鍼灸・あんまマッサージの国家資格をもったスタッフが常時4~5名いて、個人に合わせた運動機能回復を図ってくれるという。とりあえず見学もできるというので、後者の施設に父と母と見学に行った。

 

雰囲気は悪くなかった。さまざまな運動器具が置いてあり、スポーツジムのような感じだ。利用者の女性はおしゃべりに花を咲かせつつ運動している。男性はどちらかというと黙々と運動している。リハビリの運動だけでなく、毎回マッサージもしてくれるという。「私が行きたいくらいだわ」と、母も私も気に入った。トイレがひとつしかないのが不安ではあったが、週1回利用することに決めた。初めは億劫がっていた父も、次第に慣れていった。

 

どんな運動をしたのかはよくわからない。ひとつしかないトイレにこもってしまったり、間に合わずにオシッコを漏らして、びしょびしょになって帰ってきたこともあるそうだ。

 

本人のやる気がなければ、スタッフも無理強いはできない。父は施設に行っても、体を動かさずに座っていただけかもしれない。疲れて帰ってくるものの、機能が向上する気配はまったくなかったからだ。おそらく若い頃から体を動かす習慣のあった人には効果的だが、父のような運動音痴のガリ勉タイプには不向きだったのだ。

 

それでも継続は力なり。施設へ行く機会を週1回から週2回にして、とにかく不活発化を食い止めようとした。

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    吉田 潮

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