「おなかの赤ちゃん」にも相続権がある――民法886条が定める胎児の相続
「まだ生まれていない子どもに相続権がある」と聞くと、意外に感じる人も少なくない。しかし、民法第886条では、胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなすと定められている。つまり、相続開始時点で母親のおなかにいる胎児であっても、無事に出生すれば、その子は相続開始時にさかのぼって相続人として扱われる。
一方で、死産となった場合には、この規定は適用されず、相続権は発生しない。この制度が設けられている背景には、生まれてくる子どもの権利を守るという考えがある。
もし胎児に相続権が認められなければ、出生前に遺産分割が終わってしまい、本来受け取るべき財産を失う可能性があるためである。
八ツ尾順一税理士(やさか税理士法人代表)は、胎児にも相続権が認められている理由について、次のように説明する。
「胎児にも相続権を認めることで、これから生まれてくる子どもの将来的な生活や経済的保護を図る仕組みとなっています。また、生まれたタイミングによって相続権の有無が左右される不公平を解消する意味もあります」
では、胎児が相続人となると、実際の相続にはどのような影響があるのだろうか。
Aさんのケースでは、出産前の段階では法定相続人は妻と長男、長女の3人である。この場合、法定相続分は妻が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1となる。
しかし、B子さんが無事に出産すると、子どもは3人となる。その場合、法定相続分は妻が2分の1、3人の子どもがそれぞれ6分の1へと変わる。
さらに影響するのが相続税である。
相続税の基礎控除額は、
で計算される。
Aさんの相続の場合、法定相続人が3人から4人へ増えることで、基礎控除額は、
・相続人4人の場合:5,400万円
となり、600万円増加する。
つまり、胎児の出生は単に「相続人が1人増える」というだけではない。法定相続分、相続税の基礎控除額、そして遺産分割の進め方まで、大きな影響を及ぼす。だからこそ、「まだ生まれていないから関係ない」と考えて手続きを進めることは危険である。
妊娠中の家族がいる場合には、将来的に相続人となる可能性を踏まえて、慎重に手続きを進める必要がある。
