「家に帰ると気を使う」退職後に増えていった夫婦のすれ違い
隆さん(仮名・68歳)が離婚したのは、66歳のときでした。
元妻とは30代で結婚し、2人の子どもを育てました。長年会社員として働き、60歳で定年を迎えたあとも65歳まで再雇用で勤務。子どもたちはすでに独立しており、退職後は夫婦2人の生活になりました。
「仕事をしていたころは、朝出て夜に帰るでしょう。休みの日もそれぞれ予定があったので、そこまで気にならなかったんです」
ところが、仕事を辞めてから状況が変わります。
隆さんは朝食を済ませるとリビングで新聞を読み、午後は散歩へ出る程度。一方、元妻は長年続けてきたパートや友人との付き合いがあり、自分なりの生活リズムができていました。
「今日も家にいるの?」
「昼ご飯、自分で何とかしてくれない?」
そんなやり取りが増えていきました。
隆さんも家事をするようになりましたが、洗濯物の干し方や食器をしまう場所など、ちょっとしたことで言い合いになります。
大げんかをするわけではありません。
むしろ隆さんがつらかったのは、いつ機嫌を損ねるか分からないと考えながら生活することでした。夜、寝室に入ってからも昼間の会話を思い返し、「あれは言わないほうがよかったかな」と考える日が増えたといいます。
ある晩、夕食後に再び口論になったあと、元妻から言われました。
「私たち、これからもずっとこうやって暮らすの?」
隆さんにも答えはありませんでした。
その後、何度も話し合い、結婚から30年以上を経て離婚することを決めました。
厚生労働省『令和6年人口動態統計』によると、2024年の離婚件数18万5,904組のうち、同居期間20年以上の離婚は4万684組。全体の約21.9%を占めています。長く連れ添った夫婦の離婚そのものが例外的な出来事というわけではありません。
夫婦で暮らしていたマンションは元妻が住み続けることになり、財産分与についても話し合いました。
隆さんの手元に残った預貯金は約1,200万円。年金は月約17万円です。
最初は民間の賃貸住宅を探しましたが、今後ずっと家賃を払い続けることを考えると不安がありました。そこで市営住宅について調べ、離婚後はいったん月7万円ほどの民間賃貸で生活しながら、自身の所得などが応募要件を満たすことを確認して申し込みました。
一度目は落選しましたが、翌年、再び応募して当選。2DKの市営団地へ移ることになりました。
