「みんな、どこかへ行くのね」連休前の食堂で気づいたこと
「今度の連休、娘のところへ行くの。孫が待っているから」
マンション内の食堂でそう話す女性に、由美子さん(仮名・74歳)は「それは楽しみね」と答えました。
夫を10年前に亡くした由美子さんは、2年前から一人でシニア向け分譲マンションに暮らしています。年金は月約17万円。以前は郊外の一戸建てに住んでいましたが、庭や家の管理を負担に感じるようになり、住み替えを決めました。
現在のマンションにはフロントがあり、緊急時の連絡設備も整っています。館内には食堂やラウンジがあり、定期的に体操などの催しも開かれます。
「一人暮らしでも、誰かの気配がある。それがいいなと思ったんです」
実際、入居後は顔見知りもできました。
食堂へ行けば「今日は暑いですね」と話す人がいる。体操のあとに数人でお茶を飲む日もあります。親友と呼べるほど親しいわけではなくても、由美子さんにとっては十分でした。
ところが、連休が近づくと雰囲気が変わります。
「息子が迎えに来るの」「家族で温泉へ行くのよ」。そんな会話を聞く機会が増え、いつも顔を合わせる人たちも数日間留守にするといいます。
由美子さんにも、電車で1時間ほどのところに娘がいます。ただ、娘は夫と大学生の子どもとの予定があり、連休には家族で出かけるとのことでした。
「お母さんは連休、何か予定ある?」
電話で聞かれた由美子さんは、「こっちはこっちで適当にやるから、楽しんできなさい」と答えました。特に予定はありませんでした。
連休初日、いつもの時間に食堂へ行くと、普段より席が空いています。午後にラウンジをのぞいても人影はまばらでした。
翌日はスーパーへ行き、夕方にはテレビを見ながら夕食を済ませます。
一人で過ごすこと自体は珍しくありません。それでも由美子さんは、普段とは違う静けさが気になったといいます。
「いつもなら下に行けば誰かいると思っていたんです。でも、連休になると、その“誰か”にも家族や予定がある」
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、単独世帯は32.7%を占めます。1986年の13.1%から増加しており、高齢者が一人で暮らすことは珍しいものではなくなっています。
3日目の朝、由美子さんはカレンダーを見ながら、思わず独り言を口にしました。
「連休だけは、早く終わってほしいな」
