「夏休みには来るでしょう」孫のために残していた一部屋
「このベッド、まだ置いておく?」
夫の俊夫さん(仮名・76歳)に聞かれても、妻の和子さん(仮名・75歳)は毎回同じように答えていました。
「置いておこうよ。みんなが泊まりに来たとき困るでしょう」
夫婦は4LDKの戸建てで二人暮らし。年金は合わせて月約24万円、預貯金は約2,000万円あります。住宅ローンはすでに完済しています。
一人娘の奈緒さん(仮名・46歳)は結婚して家を出ており、夫と中学生、小学生の子どもとの4人暮らし。実家までは新幹線などを使って3時間ほどかかります。
奈緒さん一家は、孫たちが幼かったころには年に3、4回帰省していました。
そのたびに夫婦は張り切って準備をしました。娘が使っていた6畳の洋室にはベッドを残し、もう一組の布団も用意。孫のおもちゃや絵本も置いていました。
「夏休みになると、1週間くらいいたこともあったんですよ。だから、あの部屋はずっと娘たちの部屋という感覚でした」
ところが、孫が成長するにつれて帰省は減っていきました。
上の孫は中学校の部活動があり、下の孫にも習い事があります。奈緒さん夫婦も仕事の予定を合わせなければなりません。
年末年始には帰ってきても1泊か2泊。夏休みも家族旅行や子どもの予定が優先され、帰省しない年が出てきました。
それでも和子さんは部屋を空けたままにしていました。
シーツを洗い、布団を干し、ときどき窓を開けて風を通します。孫が小学生になってからほとんど遊ばなくなったおもちゃも、「次に来たら使うかもしれない」と捨てられませんでした。
一方、俊夫さんには以前から希望がありました。
「俺、本を読む部屋がほしいんだけどな」
俊夫さんは退職後、読書を楽しむ時間が増えました。しかし自分の机はなく、リビングで本を読んでいると、テレビを見たい和子さんと過ごし方が重なることもあります。
和子さん自身も、洋裁を再開したいと思っていました。それでも、「娘たちが来たときの部屋だから」と、手をつけずにいたのです。
総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』によると、高齢者のいる夫婦のみの世帯が暮らす住宅の87.6%は持ち家です。高齢者のいる世帯全体でも持ち家は81.6%を占めており、高齢期にも持ち家で暮らす世帯が多いことが分かります。
そんな夫婦が部屋を片づけることになったきっかけは、奈緒さんから届いた一本の電話でした。
