「うちに来ればいいよ」息子の厚意で始まった同居生活
「もう誰にも気を遣わなくていい。それが一番うれしいですね」
そう話す正志さん(仮名・67歳)は、現在、市営住宅で一人暮らしをしています。年金収入は月約18万円。家賃は月3万5,000円ほどです。
正志さんが一人暮らしになったのは、60代半ばのころ。離婚を機に、それまで暮らしていた家を離れました。
当初借りたのは、駅から徒歩圏内にある1DKの民間賃貸です。家賃と管理費を合わせて月約8万円。まだ働いている間は支払えていましたが、65歳で仕事を辞め、本格的に年金生活に入ると負担感が変わりました。
年金は月約18万円。家賃だけで収入の4割以上を占めます。
「食べてはいけるんです。でも、更新料や家電の買い替えまで考えると、ずっとここに住むのはきついなと思いました」
そんな父親を心配した40代の長男から、「しばらく、うちに来ればいいよ」と声をかけられます。
長男は妻と中学生の娘との3人暮らし。郊外の4LDKに住んでおり、一部屋空いていました。
正志さんは月4万円を生活費として入れることにし、「半年くらい世話になって、その間に次を探そう」と同居を始めました。長男夫婦との関係は良好でした。
「お風呂、先に入っていいよ」
「テレビも好きなの見ていいから」
何度もそう言ってもらいました。
それでも正志さんは、家族が夕食を食べ終えるまで風呂に入るのを待ち、休日の朝は物音を立てないよう静かに過ごしました。冷蔵庫に自分の食べ物を入れるときも、「場所を取っていないかな」と気になったといいます。
「誰かに文句を言われたわけじゃないんです。むしろ、よくしてもらいました。でも、息子の家は息子の家なんですよね」
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯の実収入は月13万1,456円、可処分所得は11万8,465円。一方、消費支出は14万8,445円でした。平均では、可処分所得だけで消費支出をまかなえていません。
正志さんの場合、年金額はこの平均を上回ります。それでも、民間賃貸の月8万円という住居費をこの先も払い続けることには不安がありました。
そこで見つけたのが、市営住宅の募集でした。
