「80歳になっても…」73歳夫婦が海辺移住で譲らなかった条件
「海の近くに住めたらいいね」
由美子さん(仮名・73歳)と夫の修一さん(仮名・73歳)は、旅行で海を訪れるたび、そんな話をしていました。
夫婦の年金収入は月約24万円、金融資産は約2,500万円。子ども2人は独立し、夫婦は30年以上暮らした郊外の一戸建てで生活していました。住宅ローンはすでに完済しています。
修一さんが会社員だったころは、駅まで通いやすく、子どもを育てるにも便利な場所でした。しかし退職して数年が過ぎると、夫婦の日常は少しずつ変わっていきます。
朝食を食べ、家事を済ませる。修一さんはテレビを見たり近所を歩いたりし、由美子さんは買い物へ。特に困っていることはありません。
ある日の夕食後、由美子さんが何気なく尋ねました。
「私たち、このままずっとここにいるのかな?」
不満があったわけではありません。ただ、子育ても仕事も終わったのに、30代で選んだ家に住み続けることを、いつの間にか当然だと思っていたことに気づいたといいます。
「それで夫に、『住んでみたい場所ってない?』と聞いたんです」
2人の頭に浮かんだのが海でした。旅行先で海沿いを歩いたり、ホテルの窓から夕暮れを眺めたりするのが夫婦共通の楽しみだったからです。
ただし、憧れだけで場所は決めませんでした。当初見学した物件のなかには、海は目の前でも、スーパーまで車で15分以上かかる場所もありました。
「景色は最高だったんです。でも夫に『80歳になってもここで買い物できる?』と言われて。それでやめました」
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、住まいや地域について重視する条件として「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」が61.4%、「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」が54.1%。高齢期の住まいでは、景観だけでなく日常生活を続けられる環境も重要になります。
夫婦が最終的に選んだのは、以前から旅行で何度か訪れていた海沿いの街でした。
海岸までは歩いて10分ほど。一方、駅やスーパー、クリニックも徒歩圏内です。
夫婦は一戸建てを売却し、その資金を使って中古の2LDKマンションを購入。73歳で、長く暮らした街を離れました。
