どのように推進するのか~事業部門とサステナビリティ推進部門・広報部門との連携
また、推進体制として、営業やマーケティング等の事業部門と、官民連携の最前線で活動するサステナビリティ推進部門や広報・渉外部門との連携が今後ますます重要となると思われる。
たとえば、環境企業として広く知られているユニリーバやパタゴニアは、持続可能性に積極的に取り組むことで消費者の支持を集め、優位性を築いているが、そのコンピテンシーはサステナビリティ活動の成果としての企業認知やブランドイメージである。
サステナビリティ推進部門とマーケティング部門・営業部門が連携することで、企業のサステナビリティへの取り組みを顧客に正確に伝えていくことの重要度は増していると言えるだろう。
どのようにリソースを確保するのか~DX推進に伴うベースロード業務のデジタル化
また、デジタル技術を活用した業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)も欠かせない。顧客や社会との価値共創に人的リソースを投じるためには、日常のベースロード業務を、デジタル技術を駆使して効率化していくことが重要である。
別稿にて分析を試みるが、ニッセイ基礎研究所の調査では、若年層ほど業務外の活動に対して忌避感を感じる傾向も示されている。経団連アンケートでも、社会貢献活動推進上の問題のトップは「活動に参加・協力する社員の広がり」(70%)となっており、日常業務との調和は課題となる。
地方創生は「共感」が鍵~地域で働く「女性」の役割の重要性
企業や従業員がサステナビリティ活動に取り組む上で重要なのは「社会との共感」であると言われる。
先の新潟県粟島浦村の官民連携のケースを見ても、企業担当者が疲弊した離島農業に共感を寄せて、主要農産物の自社製品原材料としての優位性に着目したところからスタートしている。
経営学者の野中郁次郎氏は、この「共感(エンパシー)」について「空間的認知、空気感、肌感といった認知リソースを総動員して顧客の機微を捉える能力」と語っている※27が、先行研究では、『共感を抱きやすい人』」は、環境保護にポジティブな態度を持ち、リサイクルや資源節約など具体的行動にも意欲的であるということも示されている※28。
特に、地方創生2.0においては女性の視点からの地域再生が重視されているが、持続可能性に関連する「共感」について、ニッセイ基礎研究所の調査によれば、女性の方が男性と比べて高い傾向が示されている。その一方で女性にとって活動参加・活動のバリアー(抵抗要因)の存在も明らかになっている※29(図表11)。
その点に関する先行研究によれば、サステナビリティ行動の条件として、「共感」だけでなく、「自分にも変化を起こせる」という自己効力感や、「環境保護を重視する集団・価値観に属している」というアイデンティティ・社会的規範が強い場合、実際の行動に移りやすくなるという結果※30もある。
企業にとって、女性を始めとする従業員が「地域社会との価値共創」における共感力を存分に発揮する上で、どのような評価制度とインセンティブ設計、職場環境を整備していくべきか、そして地方自治体にとっても、「女性や若者に選ばれる楽しい地方」を掲げる地方創生2.0の官民連携をどのように実効性のあるものにしていくかは、今後の大きな課題である。
※28 「環境破壊による被害(動物絶滅、将来世代負担など)を想像して生じる共感的感情」も、自己利益を超えた利他的動機を高め、結果として環境保護への傾向を強めることが示されている。Pfattheicher, S., Sassenrath, C., & Schindler, S. (2016).Feelings for the Suffering of Others and the Environment: Compassion Fosters Proenvironmental Tendencies. Environment and Behavior, 48(7), 929–945.
※29 (前掲)ニッセイ基礎研究所「サステナビリティに関する消費者調査」/(2024年調査)調査時期:2024年8月/有効回答数:2500
※30 「自己概念 」と「共感的関心」が気候変動への寄付行動にどう影響するかを検討。共感は行動意図を高める重要な要因と指摘している。Wang, S., Leviston, Z., Hurlstone, M., Lawrence, C., & Walker, I. (2021). Identity and climate change donation: The role of donor self-construal and empathic concern. Journal of Environmental Psychology, 75, 101632
「共感」を起点とした「地域社会との価値共創」がマーケティング・営業の本質に
地方創生2.0の政策推進において官民連携は欠かせない。むしろ、地方自治体はそのシナリオメーカーに過ぎず、地域の市民や企業・大学機関等の民間セクターこそが、その主役である。そして、その実効性を高めるために、地域の企業にとっても従業員(人)の「共感」を起点とした「地域社会との価値共創」を通じて地域を耕し、自社の経済的側面も考慮しながら社会(市場)の長期的な持続可能性を官民一体となって目指すことが、今後の事業活動、特にマーケティングや営業活動の本質として一層求められてくると言える。
また、このような共感や身体知を伴う活動は、一般的にAI(人工知能)で支援することはできても、完全に介在・代替することは難しいとされる。サステナビリティ・トランスフォーメーション(変革)期のマーケティング・営業活動では、むしろ人が果たす役割の重要さが、より一層増しているともいえるのではないだろうか。
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