今後の課題
官民連携の取り組みにおける期待
本稿で見てきたような、持続可能性への関与を念頭に置いたマーケティングの定義の改訂は、「拡大成長のみをマーケティングの目的」としていた従来の顧客接点の活動から大きな変換を迫るものである。
地方創生2.0の推進に向けて、自治体自身も外部の視点を取り入れたアウトサイドインの発想が求められており、域内外の企業やNPO、大学機関など幅広い民間セクターとの関係の重要性を増しているが、今回のマーケティング定義の改訂は官民連携の取り組みにおいて少なからず追い風に繋がることが期待される。
成果をどのように評価するのか~山積する「社会との価値共創」の課題
しかし実際には、「社会との価値共創」を企業が進めていく上では多くの課題が存在している。
まずは、既存の企業業績評価との整合をどのようにとっていくのか、という点である。従来の企業会計上のゴールは売上・利益や市場シェアの拡大であったが、改めて「社会との価値共創」をどのように再定義して、評価した上で企業価値に組み込んでいくかが問われている。
先の経団連のアンケート※24によれば、社会貢献活動実績に応じた組織上・人事上の評価(n=153)として、「優れた取り組みを行った個人を表彰する事例がある」(30.0%)、「優れた取り組みを行った部署を表彰する事例がある」(26.8%)となっているが、「取組状況に応じてマネジメント層を人事上の評価において加点する事例がある」(6.5%)、「優れた取り組みを行った個人を人事上の評価において加点する事例がある」(5.2%)、「あてはまる評価は行っていない」(53.6%)となっており、全体として社会貢献活動の評価は実績表彰に留まるケースが多く、人事評価の加点要素として考課されてケースは、まだ少ないと思われる。
また、同様に社会貢献活動の推進上の課題として「成果が見えにくい活動内容に対する評価の実施」(65%)、「定量的な評価の実施」(61%)がTOP3になっている※25(トップは「活動に参加・協力する社員の広がり」(70%))(図表10)。
マーケティングや営業活動の視点では、仮に自社の売上ではなく外部不経済の解消が成果となった場合、それを企業価値にどのように反映させるか、さらに従業員自身の評価にどのように帰属させるか、といった点が課題となる。
従業員は従来の評価基準とどのように折り合いをつけるか悩むことになるが、このジレンマを解消する包摂的なゴール設定が課題となる。前述の通り、各社とも方向性を模索している段階であるが、たとえば製造業の脱炭素に関する成果指標としては、「炭素利益率(Return On Carbon:ROC)※26」や、「エシカル製品の売上成長率(Ethical Product Sales Growth)」、「顧客エンゲージメントによるブランド忠誠度」といったものが、企業価値へのインパクトや組織のサステナビリティ上の成果を測る指標として想定される。
※25 (前掲)日本経済団体連合会. (2025). 社会貢献活動に関するアンケート結果
※26 ROCは営業利益を温室効果ガス(GHG)排出量で割って算出され、企業の利益創出効率と環境負荷のバランスを示すものとされる。

