「社会との価値共創」とは何か~官民連携と「社会との価値共創」~
「顧客との価値共創」という言葉は従前から使われていたが、あらためて、経済産業省の「価値共創ガイダンス2.0」や、日本マーケティング協会の「マーケティングの定義(2024)」にも触れられている「(地域)社会との価値共創」について具体的に考えてみる。
詳しくは別稿にて触れるが、官民連携(PPP: Public Private Partnership)は、民間資金を活用したインフラ整備・運営を行うPFI(Private Finance Initiative)や指定管理者制度、地方自治体と企業等が地域課題に向けて締結する「包括連携協定」、地域密着型のプロモーション活動などのCSR活動に至る幅広い形態がある。
かつ、その領域も「スマート化・DXによる生産性向上」「地域をフィールドとしたPoC(Proof of Concept)による新商品創出」そして「地域活性化」に至るまで幅広い。本稿では、マーケティングや営業活動という観点から、包括連携協定や民間のCSR活動による「社会との価値共創」のケースを見ていく。
事例1:京都市と大塚製薬株式会社による「社会との価値共創」ケース
最初のケースとして、官民連携の下で地域密着型のプロモーション活動を展開することで、商品需要喚起と社会的課題の解決に貢献したアプローチを取り上げる。
具体的には、2017年に京都市と大塚製薬が包括連携協定を締結して、「食」を通じた健康分野で「朝食摂取啓発」活動を展開した事例※17(図表7)である。
同社の主力商品「カロリーメイト」を、受験生に向けた応援メッセージを添えて受験生に配布した活動だが、その配布場所として共通テスト会場近隣の京都市営地下鉄駅構内が活用されている。
この取り組みを個別企業のマーケティング活動として捉えると、その成果は、パブリックリレーションによる話題醸成とブランドの向上、当該商品の需要喚起などにあると思われる。農林水産省の調査によれば、若年層男性の朝食欠食率(まったく朝食を食べない)は2割を超えており※18、その潜在マーケットの需要掘り起こしに繋げている点は、地方創生2.0の前提となっている人口減少に適ったマーケティング活動といえる。
一方で、この活動を「社会との価値共創」の側面でみると、朝食欠食率の高い若年層の健康づくりの推進であり、政策的には「健康長寿のまち」実現を掲げ、SDGs未来都市計画でも「市民が主体的に健康づくりに取り組むこと」を目標に掲げる京都市の政策と整合を持つ。さらに農林水産省の第4次食育推進基本計画※19が掲げる「若年層の朝食欠食率低減」という政策目標にも貢献しており、まさに、企業のマーケティング活動と社会課題の解決が一体となり社会と価値共創する「サステナブル・マーケティング」の好例と言える。
※18 農林水産省「食育に関する意識調査」(2019年10月実施) 調査によれば、男性の21%、女性の11.8%が朝食をほとんど食べず、週2~3回のみ食べる層を含めると、男性の3割以上が朝食欠食傾向にある。
※19 食育基本法に基づき、食育の推進に関する基本的な方針や目標。令和3年3月に食育推進会議で決定
