事例2:新潟県粟島浦村とカルビー株式会社の「社会との価値共創」ケース
また、官民連携の枠組みの中で、民間企業が地方・地域の持続可能な農産物から新製品開発を行い、地域の農業・産業振興を貢献するアプローチについて考えてみる。
その好例として、新潟県粟島浦村におけるカルビー株式会社との官民連携事例「カルビー miino 粟島 一人娘プロジェクト」がよく知られている。栗島浦村は日本海の離島であり、「粟島浦村のまち・ひと・しごと・まなび創生」(平成28年3月)※20では、同島の農林資源を商品化(観光商品・特産品)するための生産・加工・販売の仕組み構築や、着地型観光の推進、体験プログラムを通じた消費促進が課題とされていた。
もともと粟島浦村は、甘みが強く大粒の青大豆(品種名:一人娘)の産地であったが、カルビーの担当者がこの青大豆の原材料としての優位性を評価して、粟島浦村と事業協力しながら2021年にテスト栽培を開始、翌2022年には同村の観光協会主体で島外からの収穫ツアーの受け入れを始め、青大豆を原材料とする菓子商品を限定数量で販売している※21(図表7)。
2024年には同島の青大豆の耕作栽培面積が約10倍にまで拡大し、離島経済の活性化や持続可能な農業モデルとして注目されており、内閣府の「地方創生SDGs 官民連携優良事例」に認定※22されている。
この取り組みのマーケティング活動面の成果として、パブリックリレーションによる話題創出やブランディングにとどまらず、新商品開発による収益化にまで拡大している点は興味深い。また「社会との価値共創」の観点では、地方創生で「農業の担い手確保と新規参入支援」として重点化されている農業後継者不足や休耕地問題の解消と、地方創生2.0で課題とされている「関係人口の増加」に繋がる取り組みであり、こちらも官民連携の枠組みによるサステナブル・マーケティングの代表的な成功例と言えるだろう。
※21 カルビー株式会社 (2024年4月15日付プレスリリース)「今年は栽培面積の拡大により価格が約1/3に!新潟県・粟島の青大豆 「一人娘」を使った『miino一人娘 しお味』」
※22 内閣府 地方創生SDGs官民連携プラットフォーム 連携事例「カルビー miino 粟島 一人娘プロジェクト」
市場を攻めて、刈り取る「戦略」から、市場を育成・深耕する「構想」へ
ここまで「社会との価値共創」の具体的事例を見てきたが、これまでの企業の事業活動は、売上やシェア拡大を通じた成長が大義であった。
しかし、人口減少を当面の前提とする社会では、単なる量的な拡大成長だけでは、逆に、市場としての地域社会が徐々に疲弊してしまい、持続的な成長に繋がりにくい「合成の誤謬」に陥るリスクが生じる。
そのような中で、企業に求められるのは、市場をどのように攻め、刈り取るかという戦略発想のみならず、市場をどのように育成・深耕していくかという共創的な視点である。すなわち、地方創生の視点でいえば、「社会との価値共創」を通じて、地域の外部経済を拡大し、外部不経済を抑制していく活動であり、たとえ一時的に利益を減じる局面があったとしても、顧客や社会のベネフィット(利益)の総量拡大に寄与しながら、長期的に持続可能な成長を目指していくという発想が求められていると言えるだろう。
また、ニッセイ基礎研究所の調査では、地方部(三大都市圏以外)において、地域の持続可能性に配慮された生産物や製品が支持される傾向が見られており※23、これらもプラスの側面として留意したい(図表9)。


