お金に困らず、孫に恵まれ、「理想の老後」のはずが…
佐藤和夫さん(仮名/65歳)は、妻の恵子さん(仮名/65歳)とともに、地方都市で小さな日用雑貨店を営んでいます。
夫婦で店を始めて30年以上。地域の企業や学校などへトイレットペーパーや洗剤、文房具などを届けるのが主な仕事です。大型店やネット通販の普及により、全盛期と比べれば売上は大きく減りました。それでも昔から付き合いのある取引先からの注文があり、夫婦の年金月15万円と店の収入を合わせれば、二人で生活していくには十分な状況です。若いころからコツコツ貯めてきた金融資産も2,000万円以上あります。
そんな佐藤さん夫妻には3人の子どもがいます。うち2人は近所で家庭を持っており、孫は総勢7人。お盆や正月に全員が集まれば、家の中はまるで宴会場です。
「じいちゃん!」「ばあちゃん!」そういって飛びついてくる孫たちを、二人はなによりも可愛がっていました。
周囲から見れば、仕事もあり、老後資金もあり、子や孫にも恵まれた理想的な老後でしょう。ところが、佐藤さん夫妻には人には言いづらい悩みがありました。それは、孫たちと過ごす時間が、少しずつ負担になりはじめていたことです。
孫の夏休みに苦しめられる理由
近所に暮らす2人の子どもは、どちらも共働きです。特に困ったのが、学校が夏休みに入った時期でした。
普段なら学校へ行っている孫たちを、朝から佐藤さんが車で迎えにいき、自宅兼店舗で預かります。最初は週に何度か預かる程度でしたが、いつしか夏休みになると5人の孫たちが佐藤さん宅で過ごすことが当たり前になっていきました。配達へ出掛ける際には、車に孫を乗せて一緒に向かうこともあります。
しかし、元気盛りの子どもが5人も集まれば、家の中は大騒ぎです。
「走るな!」「店の商品を触っちゃダメだぞ!」
可愛い孫とはいえ、毎日となれば夫婦も疲れます。友人から食事に誘われても、「今日は孫がいるから」と断ることが増え、自分たちの予定も孫中心になっていきました。
限界を迎えたのは、ある日の配達前でした。佐藤さんが客先へ届ける商品を車へ積み込もうとしていたところ、店内で遊んでいた孫たちが荷物にぶつかり、積み上げていた商品を崩してしまったのです。一部は破損し、その日の配達にも間に合わなくなってしまいました。
「いい加減にしろ!」
思わず大声を上げた佐藤さん。泣き出した孫を見ながらハッとしました。孫たちの世話をしているのが負担になっていること、そして自分たちの生活や仕事まで犠牲にし、孫を叱ってばかりいる現状に気がついたのです。
「もう来なくていいよ」と距離をとる決意
この夏を最後に、夫婦は子どもたちへ伝えました。
「来年から夏休み中ずっと預かるのはやめたい。もちろん遊びに来るのは大歓迎。でも、俺たちにも俺たちの生活があるから」
孫を愛しているからこそ、毎日のように会うことをやめる。夫婦が65歳になって初めて悟った、家族との「適切な距離」でした。
