(※写真はイメージです/PIXTA)

加齢により脳の認知機能が低下するとともに、この時期の人にありがちな思考の傾向がでてきます。その一つは「威張り好き」があります。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『70歳からの老けない生き方』(リベラル社)で解説します。

「話を聞かない」という客のほとんどが中高年

■「わからない」「教えてほしい」が素直に言えますか?

 

「何がイヤかと言えば、とにかく人の話を聞かないということですね」

 

スマホのアプリの操作方法がわからなくなって、詳しい知人に教えてもらおうと頼んだときのことです。現在はゲームソフトの制作会社に勤めていますが、彼は以前、スマホショップで働いていたことがあります。

 

「どんな客がイヤなの?」

 

そう私が尋ねたところ、開口一番そんな答えが返ってきました。「話を聞かない」という客のほとんどが中高年だとのこと。

 

「ひと言、“わからない”“教えてほしい”と言ってくれれば、こちらも気持ちよく教えてあげられるんですが……」

 

私も同感です。

 

これからの時代、スマホ、パソコンの知識に疎い人、特に中高年以上は苦労することは間違いないでしょう。特にコロナ禍による「人と会わない散り散りの時代」にあって、ITスキルは生活の質を維持するためには欠かせない。仕事はもちろん、プライベートの用件、連絡といった人間関係も「リモート」中心にならざるを得ないわけですから当然です。

 

「直接会って話す」が当たり前で正しいのだという時代は終わったといってもいいでしょう。

 

そんな時代ですから、70代、80代であっても、と言うよりも、70代、80代だからこそITスキルを身につけることが、生活の質を高めることにつながることを肝に銘じておかなければなりません。

 

日々進歩するIT技術ですから、使う側も学習しなければなりません。ただし、AIの時代になればITと違ってやり方を知らなくても向こうが考えてくれる可能性が大ですが。

 

いずれにせよ、「話を聞かない」「わからないと言えない」「教えてほしいと言えない」人たちは本当に苦労することになります。中には新しい文化や先端技術の習得を拒み、「ガラパゴス化」を選ぶ高齢者もいるかもしれませんが、それは賢い生き方とは言えません。

 

考えなければならないのは、70代、80代になって体の不調や認知症などによって「移動」が困難になった場合のことです。新型コロナウイルス以外の感染症の流行による「移動」の制限も生じるかもしれません。

 

しかし、ITスキルがあれば、こうした困難にもある程度対応可能です。食料、衣類ほか日常必需品の購入、新しい情報の入力そして出力はもちろん、病気の際にも在宅診療のリクエスト、リモートでの診察、薬の処方なども「移動なし」で可能になります。Zoomを使えば、直接会えない家族や知人とのコミュニケーションにも困りません。

 

70代、80代においては、「わからないから教えてほしい」というスタンスで習得したITスキルが、暮らしの豊かさ、便利さをもたらしてくれるのです。

 

ちなみに先に述べた伊能忠敬ですが、「わからない」「教えてほしい」が率直に言える高齢者であり、「初心者、素人である自分を受け入れる人」「威張らない人」でもあったようです。

 

前述したように、50歳のときに師事した19歳年下の暦学者高橋至時に対して、終生、弟子として師を敬い、教えを乞う姿勢を崩さなかったとされています。

 

師である高橋は伊能の死の14年前に亡くなりますが、伊能は師への恩を忘れることはありませんでした。自分が亡くなった後は、高橋の墓の隣に自分の墓を建ててくれるように遺言を残しています。実際、いまも高橋の墓の隣に伊能は眠っています。

 

ここにも「凄い高齢者」である伊能の姿勢が偲ばれます。

 

和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長

 

 

※本連載は和田秀樹氏の著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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