「息が詰まっていたんです」…定年後、世界旅行へ
「そのまま年を取るのが、急に怖くなったんです」
そう話すのは、真理子さん(仮名・66歳)。元会社員で、現在は年金が月20万円台。都内近郊にマンション(完済)を持ち、預貯金と投資信託を合わせて2,000万円ほどありました。
数年前に母を見送り、相続で入ってきたのは現金中心に約1,600万円。そのうち 760万円を、半年ほどの“世界旅行”に使った といいます。
「周りからは『もったいない』と言われることもありました。……でも、私にとっては応急処置みたいな出費でした」
真理子さんの旅程は派手さよりも長期滞在型でした。アジアの港町で1ヵ月、ヨーロッパは鉄道で移動しながら数週間ずつ。ホテルではなくキッチン付きの短期賃貸を使い、自炊もしたと言います。
「ブランド品を買い漁る旅、とかではないんです。朝起きて、知らない街でコーヒーを飲む。そういう時間が欲しかった」
旅の後半、彼女のノートには繰り返し同じ言葉が残っていました。
“私は、どこに住みたいんだろう”
帰国後、真理子さんは自宅に戻りました。けれど、以前の生活は“窮屈になった服”のように感じたそうです。
「友達はいるし、便利だし、困っていない。でも、何かがずっと足りない」
真理子さんは、夫と死別してから長く一人暮らし。 “孤独の形”を変えたくなったのだと振り返ります。
結局、真理子さんは地方の海沿いのコンパクトな街へ移住することを決意しました。決め手は3つ。
歩いて暮らせること、医療機関が一定数あること、東京へも数時間で戻れる距離感。
「戻ろうと思えば戻れる。だから、踏み出せた」
賃貸で住み始め、月々の住居費は都内より下がりました。引っ越しや家具の入れ替え、下見の交通費などで相続分からさらに200万円ほど使いましたが、本人は淡々とこう言います。
「老後の生活を、ただ守ろうと必死になれば息が詰まる。私は、呼吸できる場所に引っ越したんだと思います」
