(※写真はイメージです/PIXTA)

70代、80代と年齢を重ねれば、誰でも「無病息災」というわけにはいきません。病、ケガ、体の不調とどう折り合って、克服していくかが70代、80代を上機嫌で生きていくためのテーマとなります。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『70歳からの老けない生き方』(リベラル社)で解説します。

「筋肉」が健康寿命のカギを握っている

■健康寿命の3つの構成要素

 

「最近、年とった?」
「またちょっと痩せたんじゃない?」
「肌がカサカサしてない?」

 

70代、80代の人たちにとって、こんな言葉を投げかけられるのは結構辛いに違いありません。相手は特に深い意味もなく、見た目の第一印象を口にしただけかもしれませんが、思秋期後半の人間としては軽く受け流すことはできないかもしれません。

 

実際、アンチエイジングの観点から考えると「見た目」は大切です。見た目の衰えの最大の原因は、第一に栄養不足。第二に運動不足です。

 

特に栄養面での問題は高齢者にとっては文字通り“死活問題”といっていいでしょう。

 

必要な栄養補給がなされていない高齢者の多くは痩せていますし、痩せていることで老けて見えます。世界中の調査で、痩せている人のほうが、小太りの人に比べて寿命が短いという結果が出ています。また、同じ寿命でも「健康寿命」が長いか短いかが問題です。

 

健康寿命は大きく3つの要素で成り立っています。

 

①補助なしに歩くことができる
②ひとりで飲んだり、食べたりできる
③物事を正しく認識できる

 

つまり、介護を必要とせずに生活を続けるのが健康寿命です。健康寿命を維持するために大きなカギを握るのが「筋肉」です。

 

歩行についてはもちろんですが、人間の営みのすべてに筋肉が大きく関わっています。

 

たとえば、食べ物を咀嚼したり、飲み込んだりする際、各種の骨格筋が必要です。しばしば高齢者の死に結び付くきっかけに誤嚥がありますが、この誤嚥も多くの場合、加齢による喉の周辺の筋肉の衰えが引き起こします。

 

正月になると、餅を喉に詰まらせて亡くなる高齢者がいますが、これも詰まった餅を吐き出すための筋肉が衰えているために窒息死してしまうのです。

 

きちんと歩けて、きちんと食べられる人ほど、筋肉量が保たれることで健康寿命が長く、認知症になりにくいという各種のデータもあります。

 

また、さまざまな感染症や体内の炎症、ケガなどに対しても、人間は筋肉をエネルギーに変えて改善を図るのです。ですから、筋トレでシェイプアップしたわけでもないのに、ただ痩せていて筋肉量が少ない人は重い病気になりやすく、治癒しにくくなります。さらに各種の合併症のリスクも高くなるのです。

 

80代、90代で長患いの末に亡くなった方の腕や脚を見たことがあるでしょうか。経験のある方なら、おわかりでしょうが、最期の闘いを終えた人の腕や脚にはほとんど筋肉は残っていません。

 

物を食べることもできず、直接胃に栄養を送り込む胃瘻もできず、点滴も受け付けない状態でも、何日か生きながらえた方は、最後は筋肉から生きるためのエネルギーを供給してもらうのです。

 

■「粗食」は老化加速のリスク要因

 

当然のことながら、筋肉を作り出し、その筋肉を維持するために欠かせないのが食と運動です。

 

「年をとるとさっぱりしたものしか食べられない」と肉食を控えたり、「お腹が空かないから」と食べる量をむやみに減らしたりする高齢者がいます。質、量ともに若いころと同じように食生活を続けることは推奨しませんが、70代、80代であっても健康寿命を延ばすためには、「粗食」を意識的に回避することを心がけるべきです。「粗食」は老化を加速させるリスク要因だと考えておくべきです。

 

また、夏になると熱中症で多くの高齢者が救急車で病院に運ばれてきますが、その多くが「喉が渇いていなかったから、水分補強をしなかった」と話します。

 

これは「喉が渇いていなかった」のではなく、「喉が渇いていることに気づかなかった」というのが実情です。体が水分補強を求めているのに、老化によって、その体の叫びに気づいていなかったのです。

 

高齢になると「肉を食べたい」とか「もっとエネルギーが欲しい」という体の声に気づきにくくなりがちです。注意が必要です。

 

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※本連載は和田秀樹氏の著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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