「これからは静かに暮らしたい」夫婦の決断
「もう都会の生活は十分だよ。これからは静かに暮らしたい」
そう語っていたのは、関東地方の郊外に住んでいた元会社員の高橋正雄さん(仮名・67歳)です。妻の洋子さん(65歳)と二人暮らし。定年退職後は再雇用で働いていましたが、65歳で完全退職しました。
夫婦の収入は公的年金のみで、合算で月約17万円。貯蓄は約800万円でした。
総務省『家計調査(2024年)』によれば、高齢夫婦無職世帯の平均支出は月25.6万円。平均的な生活を維持するには年金だけでは不足する水準であり、夫婦も将来不安を感じていました。
「住宅費を抑えれば、年金でも暮らせると思ったんです」
そうして夫婦は都市近郊の持ち家を売却し、地方の築40年の古民家を約500万円で購入しました。
娘の美咲さん(仮名・38歳)は当初、両親の決断を応援していました。
「自然の中で暮らしたいって、父らしいなと思いました」
ただ、引っ越し後に訪ねた際、少し気になる点もあったといいます。家は広く、庭もあり、景色も良い。しかし最寄りのスーパーまでは車で25分。病院はさらに遠く、冬は路面凍結もある地域でした。
「ここで本当に暮らしていけるのかな、とは思いました」
それでも両親は笑っていました。
「空気が違うんだよ。夜は静かでね」
移住から約3ヵ月後、美咲さんの元に父から手紙が届きました。
そこには、予想していなかった現実が綴られていました。
〈思っていたより、暮らしが大変です〉
〈家の修繕が次々必要で、費用もかかっています〉
〈冬の寒さが厳しく、体がつらい日があります〉
〈近所付き合いも思ったより難しい〉
さらにこう書かれていました。
〈正直に言うと、少し無理をしてしまったかもしれません〉
