(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢期になると、配偶者の死や体力低下をきっかけに、生活の支えを家族に求める人は少なくありません。内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしは増加傾向にあり、2025年時点で男性18.3%、女性25.4%にのぼると推計されています。 ただし「家族がいる=頼れる」とは限りません。家族側にも仕事・育児・心身の限界があり、支援のバランスが崩れたとき、関係はあっけなく切れてしまうことがあります。

「家族だから当然だろ」…エスカレートしていった父の要求

「もう頼らないでください。お金があるのだから、それで生活を整えてください。」

 

長男の一言が胸に刺さった——そう語るのは、松田さん(仮名・79歳)です。妻を5年前に亡くし、現在は郊外の持ち家で一人暮らしをしています。

 

預貯金と有価証券で約3,500万円、自宅の評価額を含めると資産は約6,500万円。年金も月16万円ほどあり、生活に困窮しているわけではありません。

 

それでも松田さんは、長男(52歳)への連絡をやめられませんでした。最初は「電球が切れた」「スマホが動かない」といった生活上の用事でしたが、やがて「寂しい」「眠れない」といった気持ちの訴えが増えていきます。夜遅い時間の電話や、返信がないままの連続着信も珍しくなくなりました。

 

「一人で食事をするのが、どうしてもつらいんだ」

 

そう言われるたび、長男は仕事や家庭の合間を縫って実家に顔を出していました。しかし訪問が続くにつれ、松田さんの要求は次第にエスカレートしていきます。来ない週があると不機嫌になり、「お前は冷たい」「親不孝だ」と責めることもありました。

 

ある日、長男は静かに言いました。

 

「それはもう“手伝い”じゃないよ。ずっと感情の面倒を見続けるのは無理だ」

 

松田さんは反発します。

 

「家族に頼って何が悪い。誰が育ててやったと思っているんだ」

 

その言葉は、長男にとって重い負債を突きつけられるような響きでした。さらに松田さんは、「いざとなれば相続だってあるんだぞ」「俺がいなくなったら全部お前のものだろう」といった言い方をすることもありました。本人にとっては安心材料のつもりでしたが、長男には“金で縛られている”感覚として伝わっていたのです。

 

長男は何度も提案しました。

 

「家事はヘルパーさんに頼めるし、見守りサービスもある。お金はあるんだから、それで生活を整えたほうがいい」

 

しかし松田さんは首を振ります。「他人を家に入れるのは嫌だ。近所に知られたくない」。支援サービスの利用を頑なに拒み、家族だけで支え合う形にこだわりました。

 

介護や生活支援を“家族の役割”と捉える意識は依然として強く、厚生労働省『2022(令和4)年 国民生活基礎調査』でも、在宅介護の主な担い手は同居家族が最多とされています。

 

ただ松田さんの家は同居ではなく、長男は自宅と実家を往復する形で支援していました。その負担は外からは見えにくく、しかし確実に蓄積していったのです。

 

次ページ「もう頼らないでください」長男が突き放した決定的瞬間
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