地方での暮らし「車があるから大丈夫」と思っていたが…
「老後はのんびり暮らしたいね」
20年前、当時53歳だった小山さん夫妻(仮名)は、東京郊外の戸建てを売却し、夫の出身県に近い地方都市へ移住しました。駅から車で15分ほどの住宅地に中古戸建を購入。庭付きで、価格は都内の半分以下でした。
「車さえあれば生活はできる。そう思っていました」
実際、60代のうちまで不自由はさほどありませんでした。スーパー、病院、ホームセンター、すべて車で10〜20分圏内。地域コミュニティにも溶け込み、畑や地域行事を楽しむ生活を送っていました。
変化が出始めたのは70歳を過ぎてからです。夫の膝痛、妻の白内障、夜間運転の不安——身体機能の低下が重なります。
「夜は見えにくい。雨の日は怖い」
運転範囲は徐々に昼間だけになり、やがて妻は運転をやめました。夫も長距離を避けるようになります。
地方では高齢者の移動の多くが自家用車に依存しています。国土交通省の地域交通に関する調査でも、地方部の高齢者の主な移動手段は自動車が多数を占め、公共交通は限定的とされています。
「車が使えなくなると、生活が一気に縮む」
小山さんはそう実感しました。
最も深刻だったのは医療アクセスでした。総合病院は車で40分。専門科はさらに遠い市にしかありません。
「通院の日は朝から予定を空ける必要がありました」
夫婦どちらかが受診すると、もう一人が運転と付き添いを担います。体調が悪い日に長距離運転をする負担は想像以上でした。
国土交通省の高齢者の住環境調査でも、医療機関への距離は高齢期の住み替え理由の主要因とされています。
