(写真はイメージです/PIXTA)

仕事に関連するポジティブで充実した心理状態である「ワーク・エンゲージメント」。「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃った状態と定義されています。近年の従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する取り組みのなかで、心身の不調に対する予防だけでなく、精神的にポジティブな側面を向上させることへの注目度が高くなっており、ワーク・エンゲージメントを活性化するための取り組みが始まっています。そこでニッセイ基礎研究所 村松容子氏がワーク・エンゲージメントと生産性の関係をアンケート調査から明らかにしていきます。

3.分析2「ワーク・エンゲージメントの変化と生産性の変化の関係」

分析1では、ワーク・エンゲージメントを測定する質問も、生産性を問う質問も、同じアンケート調査で行っている。したがって、例えば、どういった質問に対してもポジティブに捉える人と、どういった質問に対してもネガティブに捉える人がいた場合、企業からみた「生産性」が同様であっても、前者はワーク・エンゲージメントを測定する質問にも生産性を問う質問にもポジティブに回答しているのに対して、後者はいずれもネガティブに回答してしまっていて、客観的な評価になっていない懸念がある。

 

そこで、こういった個人の特性の影響を軽減するために、分析2では、2020~2022年の3年にわたって調査に回答した3,418人*10のデータを使って、個人にみられる特性が、この3年間で変わらないと仮定し、2020年と2022年の2時点におけるワーク・エンゲージメント、ストレスの状況、ワーカホリズム状況の変化と、同じく2時点における生産性の変化との関係を確認する。

 

*10:この3,418人は、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布が必ずしも国勢調査の分布にそっていない。

 

(1) 使用する変数の概要~ワーク・エンゲージメント等の変数の2020~2022年における変化

2020~2022年おけるワーク・エンゲージメント得点、高ストレスかどうか、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」に「あてはまる」かどうかの変化を図表9に示す。

 

ワーク・エンゲージメントは、変化なしは34.6%で、30.7%が悪化(得点が低下)し、34.6%が改善(得点が上昇)していた。ストレスチェック(職業性ストレス簡易調査票(57問))で高ストレスに該当するかどうかでは、78.1%が変化なしだった。悪化(高ストレスに該当していなかった人が、該当するようになった)は10.0%、改善(高ストレスに該当していた人が、該当しなくなった)は11.9%だった。「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」は49.3%が変化なしで、「あてはまる」に該当していなかった人が該当するようになった割合は25.9%、該当していた人が、該当しなくなった割合は24.9%だった。

 

【図表9】

 

(2) 分析2の結果 ~ワーク・エンゲージメントが上がっている従業員は生産性も上がっている

(i) クロス集計の結果

ワーク・エンゲージメント得点、高ストレスに該当するか、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」への回答の変化と生産性の変化の関係を図表10に示す。

 

【図表10】

 

2020~2022年にかけて、全体では、生産性は+0.67%でほとんど変化はなかった。2020年と比べて2022年のワーク・エンゲージメント得点が上昇した人、ストレスチェックで「高ストレス」に該当しなくなった人、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」に「あてはまる」ではなくなった人で、生産性は上がっていた。反対に、ワーク・エンゲージメント得点が低下した人、ストレスチェックで「高ストレス」に該当するようになった人、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」に「あてはまる」ようになった人で、生産性は低下していた。

 

(ii) 回帰分析の結果

続いて、3年間とも調査に参加した人を対象として、生産性を被説明変数とし、ワーク・エンゲージメント、ストレスの状況、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」への回答を説明変数として、固定効果モデルによる推計を行った*11。職業*12、仕事内容*13、年収*14、調査年は調整した。「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に対する回答が「あてはまる」を1、「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」を0とした。

 

結果を図表11に示す。個人の特性の影響を排除しても、ワーク・エンゲージメント得点は生産性と正の関係があり、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」人、また、高ストレス者は生産性と負の関係があった。

 

 

 

*11:F検定、ハウスマン検定により固定効果分析が有効であることを確認している。変数間に多重共線性の問題はないことを確認した。

*12:職業は、公務員(一般)/公務員(管理職以上)/正社員・正職員(一般)/正社員・正職員(管理職以上)/契約社員(フルタイムで期間を定めて雇用される者)/派遣社員(労働者派遣事業者から派遣されている労働者)とした。

*13:仕事内容は、管理職・マネジメント/事務職(一般事務、コールセンター、受付等)/事務系専門職(市場調査、財務、秘書等)/技術系専門職(研究開発、設計、SE等)/医療福祉、教育関係の専門職/営業職/販売職/生産、技能職/接客サービス職/運輸、通信職/その他 とした。

*14:年収は、300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくないとした。

4.分析結果のまとめ

2022年の1年分のアンケート調査のデータによる分析から、ワーク・エンゲージメントが高い人は、高いパフォーマンスで働けていると認識していた。ただし、ストレスチェックによって「高ストレス」と判定される人や、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」人では、パフォーマンスと負の関係があった。すなわち、ワーク・エンゲージメントが高い人で生産性が高いと考えられるが、ワーク・エンゲージメントが高い状態であっても、過度なストレスはもちろん、家にいても仕事のことが気になってしかたない程没頭するのは、生産性にマイナスの影響がある可能性がある(分析1)。

 

続いて、2020~2022年の3年にわたって調査に回答した人のデータを使った分析から、3年間でワーク・エンゲージメントが上がった人は、生産性も高くなっていると認識していた。また、ストレスチェックによって「高ストレス」と判定されるようになったり、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」になる等、ストレスの状況やワーカホリズムの状況が悪化した人では、生産性が低下していた(分析2)。

 

これらの結果から、仮に生産性の評価が回答者によって異なっていたとしても、ワーク・エンゲージメントと生産性には正の相関があると考えられる。

 

次ページアンケート調査によるワーク・エンゲージメントと生産性の関係分析(まとめ)

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年11月21日に公開したレポートを転載したものです。

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