定年退職後の穏やかな日々…元サラリーマンの老後の落とし穴
サラリーマン生活を3年前に終えた鈴木直樹さん(仮名/68歳)は、月額20万円の年金収入をもとに、妻と2人で静かな老後生活を送っていました。毎日の楽しみは近所の図書館で本を読みふけり、インターネットで世界中のニュースを追いかけること。年を重ねて物欲が減ったためか浪費もせず、食欲も落ちてきたことから外食も控え、「これで老後は安心だ」と感じていました。
「年金があるから、質素に暮らせばそれなりにやっていけると思っていたんですよ」と鈴木さんは語ります。しかし、その「質素な暮らし」の陰で、家計を圧迫する要因が少しずつ積み重なっていたのです。定年後に発生したのは、まず医療費の増加でした。歳を取るにつれ、診察の回数が増え、薬の種類も増えたことで、月にかかる医療費が年々上昇。ある月には医療費が2万円を超え、予想外の支出に家計は一気に窮地に追い込まれました。
さらに、築30年を超える自宅の修繕も重なりました。日々のメンテナンス費用を後回しにした結果、屋根の大規模修理が必要になり、その費用は50万円を超える見積もりに。「この歳になってこんな大きな出費があるなんて、想像もしていなかったですよ……」と鈴木さんは落胆します。
その他にも予想外な支出がかさむ日々。鈴木さんは戸惑うばかりで専門家への相談も遅れてしまい、やむなく破産に追い込まれました。
老後の支出の現実と、日本の高齢者の生活水準
鈴木さんのように、年金で生活を賄っている日本の高齢者は多く、国民年金や厚生年金を受け取っている方々も、生活水準を維持するには苦労しています。日本の年金支給額は毎年調整されており、物価が上昇する一方で、年金収入は増えず、実質的には目減りしている状態です。そのため、現役時代と同じ生活水準を保とうとすると、どうしても貯金や追加収入が必要になります。
しかし、高齢者の多くは、現役時代と同様の支出が普通だと感じ、支出の見直しが後手に回る傾向があります。鈴木さんも、退職後の数年間は支出の管理が甘く、月々の小さな出費が積み重なることに気づけませんでした。特に、医療費や予備の生活費を念頭に置かないままでいたことが、破産に拍車をかける結果になりました。
統計によれば、70代の高齢者の平均医療費は年間20万円以上に上るケースも少なくありません。加えて、老後に備えた家の維持費や家電の買い替えといった予期せぬ支出も、家計に大きな影響をおよぼします。現役時代には気づきにくいこれらの支出が、老後破産のリスクを高める原因となるのです。
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