2.ワーク・エンゲージメントの概念
ワーク・エンゲージメントとは、オランダのSchaufeliらによって、2002年に確立された概念で、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」、「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」、「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つが揃った状態として定義される。近年の健康経営では、精神的不調の予防だけでなく、精神的にポジティブな側面を向上させることへの注目度が高くなっており、ストレス対策と共に、ワーク・エンゲージメントの活性化対策を進めていくことが有効とされている。
ワーク・エンゲージメントの概念は、「活動水準」「仕事への態度・認知」という軸を用いて整理されることが多い(図表1)。厚生労働省による「令和元年版労働経済の分析」では、「バーンアウト(燃え尽き)」は、「仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊的に抑うつ状態に至り、仕事への興味・関心や自信を低下させた状態」とされており、「仕事への態度・認知」について否定的な状態で「活動水準」が低い状態にある。
「ワーカホリズム」は、「過度に一生懸命に強迫的に働く傾向」とされており、「活動水準」が高い点がワーク・エンゲージメントと共通しているが、「仕事への態度・認知」が否定的な状態にある。
「職務満足感」は、「自分の仕事を評価してみた結果として生じるポジティブな情動状態」とされており、ワーク・エンゲージメントが仕事を「している時」の感情や認知を指す一方で、職務満足感は仕事「そのものに対する」感情や認知を指す点で差異があり、どちらも「仕事への態度・認知」について肯定的な状態であるが、後者は仕事に没頭している訳ではないため「活動水準」が低い状態にある。ワーク・エンゲージメントについては、「仕事への態度・認知」について肯定的な状態であり、「活動水準」が高い状態にあることから、バーンアウト(燃え尽き)の対極の概念として位置づけられている。
一般に、ワーク・エンゲージメントの高さは、離職率の低さ、個人の労働生産性、仕事に対する自発性や他の従業員に対する積極的な支援、顧客満足度と正の相関があることが知られている*4。ワーク・エンゲージメントを高めるメリットとして、従業員のモチベーションが上がり、組織全体が活性化することがあげられる。相互作用があり、同僚や上司への波及効果が期待できることがあげられる。ワーカホリズムについては、仕事の生産性が高いケースもあり、その本質に関して、研究者間では一概に悪いとは評価しておらず、統一した見解はない。
また、本人も自覚していないケースもあるほか、ワーク・エンゲージメントとワーカホリズムには、弱い正の相関があることが知られている。しかし、ワーカホリズムが長く続くと心身に悪影響を与えかねないことから、この両者を区別して理解することで、ワーク・エンゲージメントが高い労働者が、ワーカホリックな労働者に転換しないように、企業はマネジメントしていくことが重要とされている。
*4:例えば、厚生労働省「令和元年版労働経済の分析」等。
3.業務パフォーマンスの評価・分析の現状
現在、従業員の健診受診率、ストレスチェック受検率等といった法人による健康経営の実施状況や、適正体重維持者率、血圧リスク者率等といった個人の健康のアウトカムは、健康経営度調査で収集している。しかし、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、ワーク・エンゲージメント等の従業員の業務パフォーマンスは取得していない(図表2)。
特に、ワーク・エンゲージメントについては、取得していたとしても、法人によって測定方法が異なり、比較できる状況にない。一方、一般的に使われている尺度ではないが、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」と「自分の仕事に誇りを感じる」は、厚生労働省による「新職業性ストレス簡易調査票」の質問票に含まれているため、健康経営度調査に回答している法人の約1/4が調査している。
そのため、経済産業省では、ワーク・エンゲージメントについて法人間での比較が可能なデータを収集することを目標として、これらの設問のデータを保有している法人に対して、健康経営度調査で結果を回答してもらうこと(評価には影響させない)や、一般的に使われている測定方法の採用を促すこと、複数の主要な測定手法を併存させてそれぞれのデータを集めていくこと等を検討している。