(※写真はイメージです/PIXTA)

「静かにしやがれ~! この野郎~!」、電車内の空気が一瞬にして凍り付きました。若い女性は大声で泣き続ける赤ちゃんを抱え、懸命にあやしています。その緊迫の場をおさめたひと言とは。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

もっと気楽に、素直に、謙虚に「ありがとう」

しかし、伯父は曲がったことが我慢できなかったのでしょう。母子を助けたかったのでしょう。伯父のやり方は、あの男性に対して、「目には目を。歯には歯を」で正面からぶつかるのではなく、「赤ん坊は泣くのが仕事だ」と正論をぶつけるやり方でした。

 

この「赤ん坊は泣くのが仕事だ」という言葉は実に味わい深い。真理を突く正論であると同時にユーモアも交じっています。気性の荒いあの男性が、伯父に反撃しなかったのは、そんな言葉とユーモアの力に押されたからかもしれません。

 

伯父は農業一筋。広い田畑を耕し、養蚕や養豚も手掛けていました。いつも冗談を飛ばしていましたが、ケンカは強そうに見えません。それだけに、時間がたつにつれ、言葉だけで立ち向かった伯父を思い出し、「かっこいい」と思うのです。

 

「かっこいい大人が減った」とよく言われます。かっこよく生きるなんて、なかなかできません。人間は、ずるくて、愚かで、弱くて、哀しい動物かもしれません。それでも、本気を出した時、真剣に立ち向かう時、奇跡を起こし、感動を呼ぶこともできる存在なのではないでしょうか。かっこよく振る舞える魂は、すべての人の中に宿っているのだろうと思います。

 

■笑顔を呼ぶ「ありがとう」は自分に返ってくる

 

コロナ禍の中、奮闘する医療従事者の方々には本当に頭が下がります。混雑するスーパーで黙々と商品をさばくレジ担当の人たちもそうです。私が行く近所のスーパーはいつも混雑しています。レジ担当の人たちは、どんなに混んでいてもマスクをせずにべらべらとしゃべる客を相手にしても、耐えていました。

 

多忙なレジ担当の方に笑う余裕はありません。お客さんを待たせる時間を短くするため、感染防止の観点からも談笑などしていられません。私がよく買い物をするスーパーには、精算後の商品を実にきれいに、丁寧にカゴに入れてくれるレジ担当者がいます。しかも作業が速い。

 

ある日、作業を中断させて申し訳ないと思いつつも、私はつい言葉をかけてしまいました。感謝の言葉が思わず浮かんだのです。「いつもきれいに入れてもらって、ありがとうございます」と。

 

すると、そのレジ担当の方は破顔一笑、笑顔で、「いえいえ、そんなこと言っていただいて、ありがとうございます」と返してくれました。喜んでくれているようでした。私も嬉しく、爽やかな気持ちになりました。「ありがとう」の言葉は笑顔を呼びます。感謝の言葉や笑顔は結局、自分に返ってくるのだと思いました。

 

私たちの社会には「ありがとう」という言葉がちょっと少ないかもしれません。日本人はシャイなのでしょうが、感謝する気持ち、相手を尊重する気持ちを、もっと気楽に、素直に、謙虚に、「ありがとう」という言葉で伝え合えればいいなと思います。感謝の言葉は“灯台”です。次に向かう勇気をくれます。

 

岡田 豊
ジャーナリスト

 

 

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本連載は、岡田豊氏の著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)より一部を抜粋し、再編集したものです。

自考

自考

岡田 豊

プレジデント社

アメリカでの勤務を終えて帰国した時、著者は日本は実に息苦しい社会だと気付いたという。人をはかるモノサシ、価値観、基準の数があまりにも少ない。自殺する人があまりにも多い。笑っている人が少ない。他人を妬む。他人を排…

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