「筋トレの第1の変化」は外見の変化
■カットの秘密
同じジムのボディビルダーOさん親子が、東海地区のボディビルコンテストに出場するというので応援に行ったことがある。コンテスト見学自体初めてのことだが、ボディビルの親子対決なんてなかなか見られるもんじゃない。ルールも審査基準もまったくわからない競技だったが、素人にも納得できるところはあった。このへんはまさに盆栽見学と同じだ。
上位の入賞者はやはり筋肉にボリュームがあって、その筋肉が細部までクッキリと際立って陰影が深い。よく日にも焼けて黒々としている。ポージングの動きにも余裕があり、いかにも堂々として見えるのだ。ちなみにこのときのOさん親子の対決はお父さんの方が10位、息子さん12位で、見事にオヤジの威厳を保った。
この大会ではNさんという方が優勝した。身長も180㎝近くあり、筋肉のボリュームも豊かでキレもいい。素人が見ても、まぁ当然の優勝とわかるような仕上がりだ。地方都市は狭い。このときに一緒に行った若い友人が「あっNさんだ。昔、バイトで一緒だったことがある」というではないか。昔からマッチョだったというからトレーニング歴も長いのだろう。
このNさんとジムの駐車場で偶然すれ違った。ところが着衣では決して大きく見えないのだ。思わず振り返って人違いかと見直してしまった。遠目のステージではあれほど大きく見えたのに、むしろ痩せて見える。その理由がわからない。
実はここにカットの秘密があるとトレーナーの鈴木さんが説明してくれた。
ボディビルダーは筋肉の細部が浮き上がることで(よく言うキレですね)体に陰影が出て、体が立体的に大きく見えるという。これが服で隠されるとカットが隠れてむしろ小さく見える。女性なら、単なるおデブさんとグラマーの違いだ。同じ身長体重でも部分、部分が絞れているとグラマーで大きく、これがないとボンヤリとした体型でむしろ小さく見えるらしい。
■シックスパックのキレ
この、筋肉の陰影影響がいちばんわかりやすいのが腹筋のシックスパックだ。筋トレといえばとりあえずシックスパックを目指すほど、最近ではよく知られるようになった。何しろ、本連載でも担当編集G君が「せっかくですから著者もシックスパック!」と、お気軽に無茶を言ってくれたほどだ。
筋トレ情報も一般化したせいか、シックスパックは腹筋運動だけをいくらやっても割れないと、さすがに知られるようになった。腹筋はもともと割れていて、その上に乗った脂肪を落とす=体脂肪を減らせば、腹筋は6つに割れて見えるからだ。といって、腹筋運動が不要というわけではなく、脂肪を落としつつ、腹筋そのものも肥大させた方が、より凹凸のはっきりとしたシックスパックにはなる。
■私のこの時点での腹筋は……
トレーナー鈴木さんに腹筋を見せ、シックスパックへの道のりを訊いてみた。何やらカニのハサミのような計測器(皮下脂肪針)でヘソの横の脂肪の厚みを測ってくれる。
「16㎜。体重であと4㎏くらいは絞りたいところですね。体脂肪率で言うと最低でも10%台の前半が目標」「え〜、あと4㎏ですかぁ〜」と思わず声が出てしまう。実はこの時点ですでに書籍の企画が決まり、2〜3㎏は減量していたのだ。体脂肪率も17〜18%だ。ここから4㎏減量はかなりキツイなぁと思いながらも、まだノンキだった。この後まさかの泥沼地獄が待っているとは思いもしなかった。
ちなみに、コンテストビルダーはそもそもこんな機械ですら測らないという。「手の甲の皮をつまんで持ち上げてみる。おヘソの横がその位にならないと絞りが足りないです。体脂肪でいうと5%位。家庭用の体脂肪計では計測不能で数字が出ません」
このときはそんなものか、なかなか凄い世界だなとただ聞いていた。が、コンテストビルダーの体脂肪5%以下というのが、どれほどの数字なのか、後で調べて驚いた。
城 アラキ
漫画原作家
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