帰省のたびに増えていった「家族だから」の要求
千鶴さん(仮名・72歳)は、夫を亡くしてから、夫婦で建てた戸建てに一人で暮らしています。年金と貯蓄があり、現在の生活に大きな不安はありませんでした。
一人息子の俊介さん(仮名・38歳)は、妻と小学生の娘との3人暮らしです。会社員としての月収は49万円ほどあり、生活に困っている様子はありません。
俊介さん一家は年に数回帰省しました。千鶴さんは孫が来るのを楽しみにし、布団を干し、好物をそろえて待っていました。
ところが俊介さんが家を訪れる目的は、次第に変わっていきます。最初は、孫の習い事の費用についての相談でした。
「今しかできない経験だから、30万円だけ助けてもらえないかな」
千鶴さんは孫のためならと、お金を渡しました。その後も、車の買い替えや私立中学の受験準備などを理由に援助を頼まれます。
「俊介もそれなりに稼いでいるでしょう」
「収入があれば、その分だけ出ていく金も多いんだよ。母さんは家のローンもないし、困らないだろう」
断り切れず、千鶴さんが3年間で渡した金額は、合計200万円を超えました。
ある年の夏休み、俊介さん一家が4泊することになりました。滞在中の食費や外食代、孫への小遣いは、すべて千鶴さんが負担しました。
帰省最終日の朝、俊介さんは一人で台所へやって来ました。
「実はマンションを買い替えようと思っているんだ。頭金を500万円くらい出してくれない?」
千鶴さんは耳を疑いました。
「そんな大金は渡せないよ」
「貸してくれるだけでいい。どうせ将来、母さんの家や預金は俺が相続するんだから、少し早く使うだけでしょう」
千鶴さんは、胸の奥が冷たくなるのを感じました。
「これまで渡したお金も、一度も返してもらっていないでしょう」
千鶴さんが言うと、俊介さんはため息をつきました。
「親から子へのお金を、普通は返せなんて言わないだろう」
「私は貸したつもりでした」
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